研究課題/領域番号 |
19K04110
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
吉村 敏彦 山陽小野田市立山口東京理科大学, 工学部, 教授 (20353310)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルミニウム合金 / キャビテーション / 時効処理 / ピーニング人工時効 / ピーニング自然時効 |
研究実績の概要 |
本研究では、我々が世界に先駆けて開発した新しい超高温高圧キャビテーション(UTPC)の温度、圧力を制御し、従来にないアルミニウム合金のピーニング時効処理技術を確立する。アルミニウム合金が使用されている自動車等輸送機械の部品製造ラインにおける時効処理時間の短縮化、既存の輸送機械アルミニウム部品の疲労強度の向上および部品の薄肉化と省エネ化を目指す。 一般的にアルミニウム合金のT5処理は500℃以上に加熱する溶体化処理とその後の急冷である焼入れを行わないため、強度はあまり期待できない。2019~2020年度の研究成果により、アルミニウム合金を500℃以上まで表面を加熱する溶体化処理するには、WJ圧力を35MPa、超音波出力を800W、加工時間20minが適切であることが明らかになっている。そのため、150℃程度の時効処理にはWJ圧力と超音波出力を下げた低温低圧キャビテーション(LTPC)が最も高い圧縮残留応力を付与できると考えられた。そこで、アルミニム合金(AC4CH)を用い、UTPCによるT5処理(溶体化処理しないで人工時効)再現し確立するために、超音波の出力とWJ圧力を下げて保持した(時効処理模擬)。これにより、高い圧縮残留応力付与することができた。具体的には、ピーニング人工時効を直接実施するため、キャビテーション気泡内温度を支配する超音波出力は100W、キャビテーション気泡内圧力を支配するウォータージェットWJ吐出圧力は20MPaが適していることが分かった。さらに、同様な加工条件で耐食性も向上させることを明らかにした。また、クラックレス層、靭性層を付与する条件を確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウォータージェト圧力(15~35MPa)と超音波出力(100~800W)、施工時間(2~60min)に対する気泡温度(発光波長、発光強度)との関係を明らかにすることができた。ここでキャビテーション気泡より発生する光子数(発光強度)を計測し、気泡温度を推定した。本実験では、検出感度が波長範囲に依存する2種類のフォトンカウンティングヘッド(光子計数ヘッド:光電子増倍管付き、浜松ホトニクス株式会社製)を使用した。表面改質中の様々なタイプのキャビテーション加工からの発光を測定し、Planckの黒体放射法と発光強度を使用して、様々タイプのキャビテーションの気泡内の温度を推定することができた。 ウォータージェト圧力と超音波出力、施工時間に対する熱処理による時効条件(温度、時間)との関係を明らかにすることができた。UTPCによるT6処理(溶体化処理(535℃×8h)後、人工時効(155℃×6h))を再現し確立することができた。アルミニム合金(AC4CH)を用い、T6処理後の試料にUTPC(超高温高圧キャビテーション)処理による上乗せ時効処理による更なる高強度化を行った。 UTPCによるT4処理(溶体化処理(535℃×8h)後自然時効)の再現するため、UTPC条件で、表面の温度を溶体化温度まで高めて溶体化ピーニング処理を行い、室温で放置し自然時効を行った。超高温高圧キャビテーション加工(UTPC)加工により、AC4CHアルミニウム合金を適切な時間で加工すると、圧縮残留応力が付与されるとともに、自然時効が起こることが分かった。また、圧縮残留応力、表面硬度の高いピーニング自然時効処理のUTPC加工条件を明らかにした。 T5処理(溶体化処理しないで人工時効)を行うための、ウォータージェト圧力と超音波出力、施工時間との関係を明らかにすることができた。LTPCによるT5処理を再現し、加工条件を確立した。
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今後の研究の推進方策 |
一般にT5処理はT6処理に比較し、強度と伸びが低い値を示す。ダイカストにおけるその要因としては、金型冷却内の偏析や粗大な析出物の析出ではなく、ナノスケールレベルの析出前駆体の影響が大きいと推察される。このT5処理の弱点を克服するため、2022年度では、2019~2021度の成果をもとに、今後以下の研究を推進する予定である。アルミニム合金(AC4CH)を用い、2021年度終了しなかった、ピーニング人工時効した部品を構造部材として活用する場合に必要とされる疲労強度の向上について検討する。疲労試験片にT5処理再現したピーニング人工時効処理を行い、疲労試験片は平板とし、曲げ疲労試験により疲労強度、疲労限疲および疲労き裂発生箇所について明らかにする。未処理材や従来のショットピーニングによる表面高強度化によって作製した疲労試験片よりも、疲労寿命を延長し、疲労強度および疲労限が向上するピーニング人工時効条件を確立する。 本研究の成果により、自動車等輸送機械の部品製造ラインにおける時効処理時間の短縮化、既存の輸送機械アルミニウム部品の疲労強度の向上および部品の薄肉化と省エネ化を実現するための生産技術として普及すると期待される。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目的である超高温高圧キャビテ-ション(UTPC)の温度圧力制御によるアルミニウム合金のピーニング時効処理の基本的技術を2019年度に開発することができた。また、各種加工条件での気泡温度の推定も行った。2020年度はT6処理後の試料に上乗せUTPC加工による高強度化する技術、及びUTPCによるT4処理の再現する技術を確立した。しかしながら、2021年度では、UTPCによるT5処理(溶体化処理しないで人工時効))の再現に予想以上に時間を要し、疲労強度向上の確認が完了しなかった。目的をより精緻に達成するために、研究期間を延長させて頂くことになった。
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