研究課題/領域番号 |
19K04118
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研究機関 | 秋田工業高等専門学校 |
研究代表者 |
池田 洋 秋田工業高等専門学校, その他部局等, 教授 (90573098)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 電界 / スラリー / スモールツール / CMP / ガラス基板 / シリコンウエハ |
研究実績の概要 |
主に非球面レンズの創成研磨に適用されることが多いスモールツールによる研磨加工技術は半導体の部分修正研磨の迅速化にも期待されている.しかし,本加工はCMP技術を採用していることから工具の回転による遠心力で研磨界面のスラリー飛散が増大し研磨効率が低下する技術課題を有している.そこで,スモールツールの創成研磨,ならびに修正研磨に電界スラリー制御技術を適用させた迅速研磨技術の開発に着手し,研磨効率の向上を狙っている.これまでの研究ではスモールツールによる研磨に電界スラリー制御技術が有効であるか確認するために,専用に開発した電極を内蔵したツールで研磨実験を行い,電界効果に寄与するポリシングパッドの材質としてポリウレタンが有効であることを明らかにし,本材質を使用した場合の最適な電界条件・研磨条件を評価している.研磨界面に電界を与えることによって一定の研磨速度の向上効果が検証できたが,研究を進めていく中で,最適な電界条件,研磨条件を明らかにするためには,ポリシングパッドのブレークイン(パッドの初期目立て)の最適条件の解明,そして,スモールツールヘッドによる研磨荷重を変化させたときの研磨量,最適な電界条件を明らかにする必要があることがわかってきた.そこで,令和3年度は,良好な研磨速度が得られる最適なブレークイン条件の評価,および研磨荷重を高精度に変化させながら研磨実験を行うことを可能とした実験装置を開発した.そして,本装置による研磨実験を行い,無電界ならびに電界下における研磨特性の評価から上記した内容に関する基礎的な知見を得た.ただし,さらに研磨メカニズム解明に必要な知見を得るために,本来であれば令和3年度に終了する本研究を1年延長しさらに研磨事件を重ね,スモールツールによる迅速研磨技術における電界制御技術を適用した時の研磨メカニズムを明らかにしていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
電界制御技術を適用したスモールツールによる迅速研磨技術の最適な電界条件を評価するため,電界環境下におけるスラリー挙動観察実験を計画していたが,限られた予算内で効果的に観察実験を進めるために,電界制御技術を適用した時に良好な研磨特性が得られる最適な電界条件と研磨条件の相関性をある程度評価することが必要であると判断し,電界条件,研磨条件を変化させその時の研磨特性を評価してきた.その結果,一定の電界効果を検証できたが,特に半導体ウエハなどの修正研磨に着目した場合,最適な研磨荷重での加工が必要不可欠であることから,設定荷重と実荷重の差を常に最小限に抑える必要がある.よって我々は,高精度な荷重制御機構を有する研磨ヘッドを開発した.具体的には2本の電動アクチュエータをヘッドに搭載し,それらのアクチュエータが有する高精度な推力制御機構を活用し,正確な研磨荷重を得る.もちろん,電極およびスリップリングを装備し研磨機面に電界を付与可能な機構も搭載した.開発した研磨ヘッドによる研磨実験を行った結果,研磨圧力と研磨量が比例関係にあり,且つ,従来の研磨ヘッドと比較して研磨圧力のばらつきを1/10に,研磨量のばらつきを1/5に抑えることが可能であることが分かった.このことから,研磨圧力を調整することによって研磨量を高精度に制御することが可能となっと.一方,工場出荷状態のパッド表面を除去し新しい加工面を出現させ,効率的かつ安定した研磨特性を確保するブレークイン工程と呼ばれる表面の目立てに着目した.今回はガラス基板で最適なブレークイン条件を評価した結果,ブレークイン処理時間が研磨量に大きな影響を及ぼすことが分かった.研磨量のばらつきが最小で,最大の研磨量が得られるブレークインの時間は 30minであることを明らかにした.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で電界環境下におけるスモールツールの研磨特性を評価してきた.その中で,非球面レンズを想定したスモールツールによる創生研磨技術,さらにシリコンウエハを想定した修正研磨技術に電界制御技術を適用した場合の迅速研磨について電界付与が一定の効果を有することを様々な視点から評価し明らかにしてきた.しかしながら,実際の研磨において迅速な研磨を実現させるためには,あらゆる研磨条件を想定しながらそれらの条件のもとに最適な電界条件を評価する必要がある.すなわち実際の研磨をある程度想定し,その研磨条件と電界条件の相関性を得てそのメカニズムを解明する必要がある.今後は,令和3年度に開発した研磨実験装置を活用し,修正研磨を想定したシリコンウエハ,創生研磨を想定したガラス基板を工作物として,それぞれの最適な電界条件を評価しそのメカニズムを明らかにしていく.開発した実験装置は電界を印加しながら研磨荷重を高精度に制御できる機能を有していることから,電界条件と研磨荷重を変化させながら研磨量を評価し,それぞれ相互の関係を評価する.ここで得られた結果が,研磨界面における荷重が及ぼすスラリー流れ,そして工作物除去作用のメカニズム解明の一助となる.また,ブレークイン条件と電界効果の関係については未評価であるため,ガラス基板ならびにシリコン基板における良好な研磨特性が得られるブレークイン条件,電界条件を評価する.さらに,ツールヘッドをX-Y平面上で自在に移動することが可能である2軸アクチュエータで構成される駆動ユニットを開発し搭載する.同時に走査式レーザ変位計をヘッド本装置に搭載し,ツール軌跡に応じた研磨前後の表面状態(平坦性,除去深さなど)を取得可能な機能を追加し,加工品質の観点からも研磨特性を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度までの計画では,令和2年度までににスラリー挙動観察実験装置を試作する計画であったが,効率的かつ効果的に観察実験を進めるため,実験装置の仕様(印加電圧,周波数の範囲,仕様する副資材など)を事前にある程度見極めることにした.しかしながら,研磨パッドの構造や材質によって同じ電界条件下においても異なる研磨特性を示すことが分かった.さらに,電界効果は,研磨条件の影響が想像以上に大きく,ポリシングパッドの材質のほかに研磨荷重やブレークイン条件などによって良好な電界効果が得られる電界条件,研磨条件が存在することが分かった.したがって,新たなパラメータとして研磨荷重,ブレークイン条件を導入し研磨特性を評価する必要がでてきた.そのため,今年度も,ポリシングパッド,スラリー,そしてガラス,シリコンウエハなどの研磨試料を購入する.さらに,「今後の研究の推進方策」で記述した通り,ツール軌跡に応じた研磨前後の表面状態(平坦性,除去深さなど)を比較できる機能を追加するためツールヘッドをX-Y平面で移動可能な駆動ユニットへの改造,およびレーザ変位計を現装置に搭載するための部品調達に研究費を充当する.
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