研究課題/領域番号 |
19K04121
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
中本 剛 千葉大学, 大学院工学研究院, 教授 (30198262)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光造形 / 炭素繊維 / 配向 / 電界 / 紫外線硬化樹脂 / 引張試験 / 曲げ試験 / 歯車 |
研究実績の概要 |
光造形法ではその素材は紫外線硬化樹脂である.光造形法で得られた部品を実用に供するためには機械的な強度を向上させることが必要である.本研究は炭素繊維を配向して強化した部品の製作方法を開発することを目的としている. 昨年度は電界を利用した方法によって造形物の厚さ方向に炭素繊維を配向した.銅板上に0.7mmの長さに切断した炭素繊維を置く.この銅板を陰極とする.陽極の銅板との間に直流電界を印加して炭素繊維を陽極板上に配向した.令和2年度は配向する炭素繊維の本数について実験により検証した.陰極に置く炭素繊維の本数を変えて電界を印加して配向後の本数を調べた.その結果,本数が少ないと配向しやすく,本数を増やすと炭素繊維同士が交叉してしまい配向が困難となった.造形物の強度を向上させるためには炭素繊維の本数が多いほうが良いので,どの程度まで多くすることができるかを実験で検証した.その結果,造形後の炭素繊維の密度は1平方ミリメートルあたり10本が,この方法では適切な値であった.この本数による強度の改善については令和3年度に検討したいと考えている. 次に炭素繊維を配向した樹脂の引張試験を行った.試験片は長さが4.8mmで,最も断面積の小さい部分は0.4mm×0.4mmの正方形である.この試験片および引張試験装置は製作した.その結果,炭素繊維が30本程度でも引張強度は向上し,その向上の程度は体積則にしたがっていることがわかった.令和3年度は炭素繊維の本数をさらに増加させて引張試験を実施する予定である.さらに炭素繊維を歯車の歯底円に沿って配向した歯車と,歯の中心線に沿って配向した歯車について歯の曲げ試験を行った.その結果,歯の破断は,炭素繊維を配向していない箇所で生じてしまい,曲げ強度は向上しなかった.今後は複数の方向に炭素繊維を配向した歯車について曲げ試験を実施する予定である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では,(1)造形物の厚さ方向の配向における炭素繊維の本数の適切な値の検証,(2)造形物の面内と厚さ方向の両方について炭素繊維を配向した造形物の製作,(3)機械的な強度向上の実証,の3つを実施する予定であった.このうち(1)は実証した.(2)については製作したけれども面内方向の配向については不十分であり,さらに検討が必要である.(3)については強度向上の結果を得ることができず,今後は複数方向に炭素繊維を配向した造形物を製作して実証しなければならない. このように,やや遅れてしまった原因は新型コロナの感染拡大のため令和2年度の前半は実験をほとんど実施することができなかったためである.
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今後の研究の推進方策 |
今後は次のように研究を推進したい. (1)造形物の厚さ方向の配向の効果 造形物の厚さ方向に炭素繊維を配向することによる効果のうちの一つは厚さ方向への引張強度の向上である.この引張試験についてはおおむね結果が得られている.一方,せん断試験も行って,造形した面を積層したときの,せん断強度の向上についても実証したいと考えている. (2)造形物の面内と厚さ方向の両方向について炭素繊維を配向した造形物の製作 (3)機械的な強度向上の実証 この(2)と(3)は関連しているので両方について述べる.単純に造形物の形状に沿った方向に炭素繊維を配向させても機械的な強度は向上しない結果を令和2年度に得ている.その結果を利用して,複数の方向に炭素繊維を配向して,配向による機械的強度の向上について実証したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度はコロナの感染拡大のために十分な実験を遂行することができなかった.造形物の厚さ方向の配向には電界を利用している.電界を印加するための電源装置を新規に購入することなく既存の装置を使用した.造形物の強度向上の評価には引張試験と曲げ試験を実施した.この試験も簡便な装置で実施せざるを得なかった.令和3年度は電源装置の購入と引張試験,曲げ試験を実施するための測定器の購入を計画している.さらに,せん断試験を実施するための測定器の購入も計画している.
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