近年,トライボロジー特性向上を目的として,数十μmオーダーの微細構造を付与する表面テクスチャリングが大きく注目されている.本研究では,加工速度が速く,加工変質層の生じない電解加工により,大面積の表面テクスチャリングを高精度かつ高速に実現することを目的としている.このために,微細周期構造を有するmmオーダー以上の工具電極形状を電解加工によって工作物に転写することにより,テクスチャの周期が100μm以下の平行溝テクスチャ等の加工が可能となった.また,本手法により超硬合金製の切削工具へテクスチャを付与することができた.しかし,テクスチャを付与した切削工具では切削加工時の工具摩耗が増加するなど,期待に反する結果となった.これは,電解加工によって超硬合金中のコバルトの過度な溶出が起こったためと考えられる.そこで,切削工具として用いられる各種超硬合金に対して電解加工を行い,超硬合金の種類による加工特性を調査した.タングステンカーバイドの含有量が少なく,コバルトの含有量が多い超硬合金は単極性の電圧を印可する電解加工でも加工が可能であった.しかし,超硬合金中のコバルトが過度に溶出してしまうため,両極性の電解加工の方が良好な表面粗さが得られた.一方で,タングステンカーバイドの含有量が多い超硬合金は,単極性の電圧を印可する電解加工では加工が困難であった.これは,超硬合金中のタングステンカーバイドが酸化タングステンとなるだけで,超硬合金材料の溶出が進まないためと考えられる.しかし,両極性の電圧を印可することで加工が行え,工作物が陰極となる極性での電圧の印可時間や,印可するタイミングを最適化することで,加工速度の向上と良好な表面粗さが得られた.
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