研究課題/領域番号 |
19K04125
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研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
佐藤 昌彦 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (50244512)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 極低温 / 切削 / 温度 / 熱伝達 |
研究実績の概要 |
耐熱合金加工時に少量の液体窒素を切削点に噴射供給する装置として,サブクーラーを備えたシステムを製作した.ノズルからの距離とその点での雰囲気温度との関係を測定したところ,ノズルから約120mmの距離まで約-190 ℃の低温環境が得られた.液化二酸化炭素の場合はノズルから100 mm離れると温度は0℃ 程度であることと比べると十分な冷却効果が得られている.液体窒素の熱伝達特性を調べるため円柱形状の試験片を用意し,端面に液体窒素を噴射した際の試験片内部の温度を測定して熱伝達特性について検討した.試験片には,チタン合金,炭素鋼,銅を使用して被冷却材の熱伝導率の違いを検討した.表面近傍の冷却は熱伝導率の小さな順に速い.これはチタン合金のように熱伝導率の小さな場合は表層が冷却されると試験片内部から表層への熱の伝導が遅いことから冷却が速いためと考えられる.試験片をチタン合金とした場合において,冷却開始とともに表層の温度が徐々に低下していき,途中から温度が急激に低下する現象が測定された.これは冷却初期では試験片表面に液滴として供給された液体窒素が蒸発して気膜を作り,膜沸騰の状態で冷却がなされ,ある程度表層が冷却されると気膜が形成されずに冷却されることとなって冷却が速くなったと考えられる.炭素鋼や銅の場合ではこのような現象は観察されなかった.アルミナ工具を用いて液化二酸化炭素と液体窒素を切削点に供給した際のチタン合金外周旋削時の工具すくい面温度を赤外線放射温度計を使用して測定した.実験条件は,切り込み0.5 mm,切削速度120 m/min,すくい角-6°とした.例えば送りが0.4 mmのとき,乾式切削に比べて湿式切削ではすくい面温度が96 ℃,液化二酸化炭素の場合で61 ℃,液体窒素の場合で87 ℃温度が低く,液化二酸化炭素や液体窒素の場合でも湿式切削と近い冷却効果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
液体窒素の供給装置として,保存用耐圧ボンベの内圧を利用し,サブクーラーを介して供給する装置を制作した.ノズルからは液体窒素の微小な液滴が安定的に噴射され,約-190 ℃の低温環境が得られておりノズルから120mmの距離までその温度が持続し,液滴が届いていることが確認された.本装置を用いて切削点へ液体窒素を供給できる. チタン合金や銅など熱物性の異なる円柱形状の試験片を用意し,端面に液体窒素を噴射した際の試験片内部の温度を熱電対で測定したところ,熱伝導率の小さな順に表面近傍の冷却は速いことが明らかとなり,液体窒素による冷却効果の差が確かめられた.チタン合金へ噴射した際には冷却の途中から冷却速度が急激に高くなり温度が低下していく現象が測定され,冷却初期には膜沸騰状態にあり冷却が妨げられていることが確認された.このような膜沸騰状態では,液化二酸化炭素による冷却にくらべて熱伝達率が小さいことが熱伝導解析により確認できた. 赤外線に対して透過性を有するアルミナ工具を用いて,放射温度計によって切削時の工具すくい面温度を測定した.工具には工具裏面からすくい面直下まで小さな穴をあけて光ファイバを挿入している.加工中に工具と切りくずの接触面から放射された赤外線は工具内を透過し光ファイバで受光されて温度計に伝送される.乾式,湿式,液化二酸化炭素冷却,液体窒素冷却時の工具刃先温度を送りを変えて測定したところ,乾式に比べて湿式,液化二酸化炭素冷却,液体窒素冷却時の効果が確認された.ただし送りを変えたことによる特徴的な傾向は小さかった.今後,切削速度,工具形状,液体窒素の噴射方向などについて実験を行い,解析結果と合わせて,実切削における熱伝達特性について検討を行っていく. 以上のことから現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
液体窒素および液化二酸化炭素の噴射冷却効果が,通常の水溶性切削液と比べてどの程度異なるか定量的に明らかにするため,熱伝達率と被冷却物表層の冷却速度を測定する.熱伝達率は被冷却物表面近傍の温度勾配を測定することで求める.特に液体窒素を噴射した際には被冷却物の温度によって膜沸騰状態となって冷却効率が低下するが前年度に確かめられていることから,膜沸騰から核沸騰への遷移条件を明らかにする.被削材の温度を切削時と同程度まで昇温させた場合についても検討する.また被冷却物として,切削工具材料であるハイス,超硬,セラミックス,ダイヤモンドも使用し,表層の冷却速度を明らかにする.特に表面粗さの違いが液体窒素を伴う熱伝達に及ぼす影響について調べる.被冷却物表面での液滴の挙動は高速度カメラで詳細に観察する. 実際の切削加工時の工具すくい面温度について,チタン合金やニッケル合金の切削を行い,乾式,水溶性切削液,エアブロー,液化二酸化炭素,液体窒素による冷却環境下での工具すくい温度をそれぞれ測定する.切削条件として切削速度と送りを変化させる.切削速度の変化は単位時間当たりの発熱量と相対的な流速の変化,送りを変化させることは被冷却領域の容量が変化することに対応する.切削時の各クーラントの熱伝達率は,切削モデルを作成し熱伝導解析によって逆解析的に算出し,先に求めた値と比較することで実切削におけるクーラントの効率を検討する. 加工後の工具摩耗を観察し,加工点近傍の冷却環境が工具摩耗に及ぼす影響を明らかにする.被削材の仕上げ面性状についても同様にクーラント条件との関係を調べる.切削点への液体窒素の噴射方法は加工温度に大きな影響を及ぼすと考えられることから,液体窒素の噴射方向を,切削点の上方,側方,工具逃げ面側と変化させて切削温度に及ぼす影響を明らかにする.
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