研究課題/領域番号 |
19K04144
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
井上 真二 関西大学, 総合情報学部, 教授 (60432605)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 安全関連系 / 危害リスク / 総期待保全コスト / 最適保全実施方策 / ソフトウェア安全度水準 |
研究実績の概要 |
運用時に想定しうる安全関連系の状態を整理し,安全関連系の状態と安全関連系への作動要求発生事象の双方の不確実性を考慮しながら,2019年度に明らかにした保全実施パターンに基づき,暫定的な最適保全(最適プルーフテスト)実施方策を導出した.この最適プルーフテスト実施方策は,定義したそれぞれの保全実施パターンに対して,運用時の危害事象発生を考慮した期待損失コスト(危害リスク)とプルーフテストと呼ばれる保全作業実施に伴うコスト(保全実施コスト)とのトレードオフ構造に焦点を当てたコスト最小化問題に基づきながら,数理的な意思決定支援手法として経済的観点からプルーフテスト実施方策を与えるものである. 特に,導出した最適プルーフテスト実施方策では,安全関連系特有の故障種別,すなわち,非常に高い頻度で行われる自己診断機能によって検出されるDDフォールト(dangerous detected fault)と,自己診断機能では検出できずプルーフテストや危害事象の生起のみによって検出できるDUフォールト(dangerous undetected fault)を考慮しながら,設計時の安全性評価において重要な指標である自己診断率を有機的に反映させた点,さらに,安全関連系の状態と安全関連系への作動要求発生事象との関係から生起する安全関連系の危険側故障発生メカニズムに基づいて解析を行った点は,安全関連系の特徴を陽に反映した最適方策を導出できた. また,電気・電子・プログラマブル電子機器の安全関連系におけるソフトウェアの安全度水準算定手法や安全関連系ハードウェアを制御するソフトウェアの安全性・信頼性評価に関する議論についても,当研究課題に関連する無視できない問題として,その研究・開発についても取り組み,オンライン形式で開催された適切な学会等で速報的に公表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当研究課題の当初実施計画と照らし合わせ,大筋の上での進捗状況は概ね予定通りであるが,新型コロナウィルス感染症に関する影響を受け,研究活動における各実施フェーズでの有識者からの意見聞き取り,提案手法の改良,および機能安全評価の適用事例などを通じた適用性に関する議論は滞っている状況である.また,各研究実施フェーズにおいて得られた研究成果を速報的に公表する場として想定し参加を予定していた国際会議や研究会等が,新型コロナウィルス感染症に関する影響を受け,2020年度は軒並み中止もしくは次年度への延期となり,2020年度に予定していた研究実施内容が必ずしも満足するかたちではないため,上記の判断に至った次第である. しかしながら,安全関連系に対する運用時の保全実施パターンや,危害リスクと保全実施コストとのトレードオフ構造を解明し,それに基づきながら数理的な側面から最適保全実施方策まで導けたことは,当研究課題に関連した今後の研究活動を展開する上で極めて重要な基盤が形成されたものと確信している.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度において得られた主な研究成果として,安全関連系に対する運用時の最適保全(プルーフテスト)実施方策およびこれらに付随して得られた知見を活用しながら,まずは,導出した最適保全(プルーフテスト)実施方策に対して,理論的側面からの数値例を示しつつ,理論的な意味での妥当性を検証する予定である.また,これらと並行しながら,新型コロナウィルス感染症の影響を受け2020年度には実施できなかった各研究実施フェーズでの有識者からの意見聞き取り,それらに基づいた提案手法の改良等も,新型コロナウィルス感染症の影響が長引く中での先方の状況や研究代表者の当研究課題の取り組みへ配分できるエフォートの状況を見つつ,可能であれば実施していく考えである. また,2020年度は軒並み中止もしくは次年度への延期となった国際会議をはじめとして,関連する学会・組織が開催する研究会等もオンライン開催が主流になりつつある中,得られた研究成果を積極的に公表して行く予定である.さらに,2020年度においても並行して実施してきた電気・電子・プログラマブル電子機器による安全関連系ソフトウェアに対する安全度評価および関連した開発管理手法の研究・開発についても,当研究課題に関係する興味ある問題として引き続き取り組んでいく考えである.
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては,新型コロナウィルス感染症に起因して(1)2020年度に予定していた実務者への現場での聞き取り調査(2019年度から持ち越しになっている部分も含む)が計画通り実施できなかったこと,(2)参加予定であった国際会議(アメリカ合衆国/フロリダなど)の中止および国内研究会の開催方式がオンライン方式に変わったこと,(3)投稿中である学術雑誌論文の査読プロセスが大幅に遅延していることが挙げられる. 次年度使用額に対する使用計画としては,(1)2021年度において予定している研究内容を実行するための機器の整備,(2)オンライン開催を含む国際会議への参加費(現地開催の場合は旅費も含む)および実務家との研究打合せや研究資料集に係る諸経費,(3)学会誌掲載料 などに対して主に充当する予定である.ただし,先般,新型コロナウィルス感染症の断続的な影響を受け,学内業務等の劇的な増加による研究エフォートの縮小等,当研究課題に対する当初計画通りの実施およびそれに連動した配分経費の計画的執行の見通しが立たない状況であり,大きな不安も抱えていることも付記しておく.
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備考 |
【Chapter in Books】 - S. Inoue and S. Yamada, “Debugging process modeling for quality/reliability assessment of software system,” in Systems Performance Modeling, pp. 13-20, Chap 2, De Gruyter, 2020.
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