研究課題/領域番号 |
19K04146
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
青木 才子 東京工業大学, 物質理工学院, 准教授 (30463053)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | トライボロジー / 指の摩擦 / 触知覚 / 表面テクスチャ |
研究実績の概要 |
本研究では,タブレット操作時での指のすべり動作における触感の再現化について,触感をもたらす視覚的刺激と触感に対する力学的応答の両面から触感を定量的に表現する指標を確立することを目的とする.本研究は,(1)ディスプレイ表面での指のすべり動作における指の接触面観察と摩擦特性の評価,(2)ディスプレイ画像の応答遅れから生じる心理的および力学的変化の相関評価,(3)指の摩擦刺激と視覚的刺激による触感の表現指標の確立の3つに分類して,それぞれ並行して進めていく. 2020年度は,平板型摩擦測定装置にタブレット端末を設置してディスプレイの応答遅れによる触感試験と摩擦測定を同期させて行うことを目的とした. まず,2019年度に引き続き,指の接触状態の画像取得のため,高速度カメラを組み合わせた摩擦測定装置の改良を行なった.画像取得は可能になったものの,摩擦測定との同期設定や画像解析の方法について再度検討する必要がある.また,相手摩擦材としてディスプレイ用ガラス基板を使用し,微細なテクスチャの付与により生じる接触界面のせん断強さの変化を摩擦刺激として与えたときの指の摩擦特性の測定を実施した. 次に,Windowsを搭載したタブレットを使用して,ディスプレイ画像の応答遅れを生じさせるアプリケーションの開発を試みた.画像の応答遅れが生じるプログラムの作成を開始し,プログラムの完成後には応答遅れによる感性・触感試験と摩擦測定の同期設定を実施する. さらに,指の摩擦刺激と視覚的刺激を同時に与える触感試験を実施し,視覚的刺激により指の摩擦特性が異なることを確認した.また,個人差によるばらつきを考慮するため,指の硬さを測定できる装置を購入し,指の硬さなどのパラメータを新たに導入することでデータの精度向上を行い,次年度以降のデータ解析に反映する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は,初年度に引き続き,接触面観察を備えた指の摩擦測定装置の改良やディスプレイ画像の応答遅れを生じさせるプログラムの開発・最適化を行った.本年度の前半はコロナ禍により実験が停止したため,摩擦測定装置の改良や応答遅れのプログラムの開発に遅れが生じている.実験が再開となった後は装置の改良やプログラムの開発を徐々に進めている段階である.また,高速度カメラにより接触面の画像取得を実施したが,画像と摩擦特性を同期させる方法や画像解析など検討の必要がある. ディスプレイ画像の応答遅れを生じさせるプログラムの開発に着手した.使用するデバイスやOS,プログラムのソフトなどの選定を行い,画像の●を指に追随させるなど初歩的な動作までプログラミングすることができた.今後は更に複雑な動作やデータ処理を組み込むスキームを開発していく. さらに,既存の平板型3分力計を使用した摩擦測定装置により,種々のテクスチャを施したガラス表面上で指の摩擦測定と触感試験を実施した結果,指の摩擦データと触感データには相関性が見られたものの,個人差によるデータのばらつきの影響が顕著に現れることがわかった.そこで,個人差による指の機械的特性を明らかにするために,指の硬さやヤング率を測定できる装置を導入した.指の摩擦,触感に加え,指そのものの評価を加えることで,個人差によるばらつきが顕在化してもデータ解析が可能になることが期待できる. 以上から,本研究は若干の遅れは生じているがおおむね予定どおり進展しているものと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2021年度では,全体の総括として,平板型摩擦測定装置にタブレット端末を設置してディスプレイの応答遅れによる触感試験と摩擦測定を同期させて行い,視覚的刺激に対する触感の変化を定量的に表現する指標を提案する. (1)ディスプレイ表面での指のすべり動作における指の接触面観察と摩擦特性の評価では,前年度に引き続き摩擦測定装置の改良を行い,触感試験と摩擦測定を同期させる方法を確立する.その後,複数の研究対象者による摩擦測定を実施し,より多くのデータ収集を試みる.特に,誤操作によるデータのばらつきが生じないよう測定条件を明確にして,性別,年齢を問わず,幅広い層で多数の被験者によるデータ収集を心掛ける. (2)ディスプレイ画像の応答遅れから生じる心理的および力学的変化の相関評価では,前年度から作成を始めたプログラムに複雑な動作やデータ処理を組み込み,フィードバックと修正を繰り返して,研究対象者による試験の実施を目指す.また,プログラム開発が順調に進めば,触感試験における対象者の視線解析を実施して,心理的変化を力覚以外の身体的変化として評価することも検討している. (3)指の摩擦刺激と視覚的刺激による触感の表現指標の確立では,触感試験の入力パラメータである視覚的刺激(応答時間など)と出力パラメータである力学データ(押付け荷重,せん断強さなど)の定量的相関を明らかにすると同時に,任意の視覚的刺激における触感アンケートと視線解析等の結果を対応させることにより,入力・出力パラメータから触感の定量化を行う.両者の相関を表す指標を抽出して,その指標による触感の再現化について提案を行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度では,本年度の前半はコロナ禍の影響により実験が停止したため,摩擦測定装置の改良や応答遅れのプログラムの開発に必要な部品等の購入が遅れたこと,人を対象とした指の摩擦測定について研究対象者が予定人数に満たなかったことなどから,物品費および人件費に未使用見込額が発生した.一方,指の摩擦測定と触感試験を実施した結果,個人差によるデータのばらつきの影響が顕著に現れることが明らかになり,個人差による指の機械的特性を明らかにするために,指の硬さやヤング率を測定できる硬さ試験機を導入した.2021年度は未使用見込額を物品費に計上して,個人差による指の特性を評価できる新規装置に使用予定である.
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