磁気粘性流体(Magnetorheological Fluid,以下MR流体)は,そのレオロジー特性である粘性が外部から印加された磁界の強さに応じて変化する機能性流体である.MR流体の粘性は,外部磁界により高応答で制御できる.本研究では,MR流体の印加磁界の形成に電力消費を要する電磁石は用いずに,永久磁石とMR流体に磁束を導くヨーク(継鉄)との相対位置の変化で印加磁界を制御する.永久磁石には常にヨークへの吸引力が作用しており,永久磁石の保持と移動には動力を必要とするが,この吸引力を機構内部で受動的に相殺する構造とすることにより,動力を消費することなしにMR流体の粘性を制御する技術基盤を確立し,MR流体を用いたブレーキなどへの適用により,省動力な動力変換・制御システムを構築することを目的とする. 令和元年度(2019),令和2年度(2020)では,電磁石を用いずに永久磁石の移動のみでMR流体の磁界を制御する界磁機構について,永久磁石の移動と保持に力またはトルクを必要としない界磁機構の具体化と,その設計手法の確立を行うとともに,詳細設計に基づきMR流体界磁機構の試作を行い,その省動力効果を検証した.令和3年度(2021,最終年度)では,MR流体の非電磁式省動力界磁機構の知見をもとに,従来,ブレーキ制動やクラッチ締結など,相対運動対の固定に利用していたMR流体を,二つの回転体間の動力伝達に応用し,永久磁石界磁により高粘度化したMR流体を介して無振動,無騒音で回転動力を伝達する機構の開発と,動力伝達メカニズムを明らかにした.以上により,相対運動対の固定と,運動体間の動力伝達の両方の動力伝達制御を可能とし,MR流体を用いた動力伝達システム構築に寄与する設計基盤を構築した.
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