SCM435の長手旋削で切削距離L=5000mの粗さ曲線をみると,乾式,エマルション5%および10%,鉱油,植物性切削油のいずれをミスト給油した場合も送りマークの形状に違いがあるものの,被削材1回転あたりの送りに対応した繰り返し形状が確認できる.ところが,切削距離L=7000mでは,乾式はL=5000mと比べてほとんど変化はないが,切削油剤を用いた場合に送りマークの上下方向の変動が大きく,特にエマルション10%と植物性切削油では,送りごとの周期性もほとんどなかった.切削距離L=7000mでのノーズ部の逃げ面摩耗の分布は,いずれの条件においても,切り取り厚さが減少しても逃げ面摩耗幅は単調に減少するのではなく,仕上げ面生成領域に近づくにつれて増加に転じている.切削油剤を用いた場合は乾式と比べ,切り取り厚さが大きい横逃げ面側で工具摩耗の抑制が見られるが,逆に切り取り厚さが小さい領域で工具摩耗が増加した.この傾向は,潤滑特性が高い油剤の方が強い.仕上げ面生成領域における被削材の挙動を調べるために,エンドミル加工における被削材出口側の変形幅を,仕上げ面生成領域の最大切り取り厚さを変化させて調べた.水溶性および油性切削油剤ともに,刃先丸みよりも切込みが小さいときの変形幅は乾式とほぼ同等か潤滑性が高いときにやや小さく,水溶性油剤の方が油性切削油剤よりも変形幅が小さい.これは,水溶性切削油剤の冷却作用が大きいことが理由と考えられる.切込みが刃先丸みと同じ程度のとき潤滑性が高いときに変形幅がやや大きくなった.さらに切込みが大きくなると潤滑性が高いときの変形幅が小さい.よって,切込みが刃先丸みより十分に小さい場合に切削油剤の冷却性により被削材の切削熱による軟化が阻害されたこと,切込みが刃先丸み程度のとき加工硬化した被削材が逃げ面側を擦過したことが,乾式よりも工具摩耗が増加した原因と考えられる.
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