R4年度はポリエーテルエテールケトン(PEEK)およびポリテトラフルオロエチレン複合材等を主材料としたラジアル軸受の転がり疲労テストを行った。マイクログルーヴ(微細溝)を有する軸受軌道面に生成するPEEK/グラファイトフィルムをTEMおよびEDSを用いて調査した。フィルムは接触部表面から500~5000ナノメートルの深さ領域で確認でき、球状のグラファイトのナノ粒子を含んだPEEK/グラファイトフィルムとして形成されていたことを発見した。このようなフィルムはマイクログルーヴの微細周期構造の突起部の近傍を起点に形成される傾向にあり、転がり摩擦に伴ってフィルムが生長するとの結論に至った。 研究期間全体を通じて、PEEK等を主材料としたラジアル軸受モデルを用いて、軌道面に生成するPEEK由来の自己潤滑膜フィルムの影響とその再生挙動について調査した。ドライ環境の転がり接触下ではヘルツ接触部領域でPEEK複合材フィルムの堆積層(レイヤー)の生成が確認でき、その後フィルムは軌道面全体を覆うことが分かった。このような自己潤滑膜フィルムを有する軸受のトライボロジー挙動の影響を調べるために、数10マイクロメートルサイズの微小な人工傷を軌道輪に導入して転がり接触テストを行った。特定の繰返し圧縮荷重および速度条件下でテストの結果、軌道輪に回転方向に沿って導入した人工傷は,繰返し数が約50万回のとき堆積したPEEK 複合材フィルムで覆われたことにより縮小したことが確認された。このトライボロジー挙動は機械的な圧縮と局所的な摩擦熱がフィルム化に関与したものと考察した。本研究を通じてPEEK複合材の自己潤滑膜フィルムが、長寿命化に影響を及ぼす表面キズ無害化の可能性を示唆していること、さらに自己潤滑膜のなじみ面形成と制御に関する知見を得た。
|