本研究は,二つのアコースティックエミッション(AE)センサを使用して,二固体各々のトライボロジー特性を同時にリアルタイム計測するデュアルAEセンシングの計測・評価手法を確立することを目的とする.異なる機械的特性や表面性状の材料などを使用して,意図的に摩擦・摩耗モードを変化させる実験を実施し,摩擦界面を側方からin situ観察(その場観察)しながらAE信号および摩擦力を計測して,現象と信号の対応付けを行う.摩擦系としての値のみならず,材料各々のトライボロジー特性をin situ計測・評価できれば,摩擦材料の状態監視(IoT化や知能化への応用)および最適設計への視野が大きく広がると考える. 令和4年度は,令和元年度に構築したデュアルAEセンシング系を搭載した摩擦界面in situ観察・AE計測実験装置を用いて,主に金属材料および樹脂材料を用いた摩擦実験を遂行した.また,粒度の異なる研磨剤や粘度の異なる潤滑剤を用いて,摩擦・摩耗モードを経時的に変化させる実験を遂行した.その結果,各現象の変化に起因してAE信号の周波数スペクトルが変化することがわかった.ここでは,予測分析および機械学習を導入し,摩擦実験中に計測された膨大なデータを分析することで研究の効率化を図った.さらに,二つのAEセンサの特性が実験結果に影響しないかの検証実験を実施し,互いのセンサを交換しても傾向が変わらないことを確認した.異なる種類の樹脂材料を用いた実験で得られた知見を追加し,さらなるAE信号-トライボロジー特性マップのバージョンアップを行った.実験中に高速サンプリングで連続計測したAE信号原波形をリアルタイムで短時間周波数解析(STFT)することによって,摩擦・摩耗モードやトライボロジー特性の変化を高確度にin situ計測・評価できるようになった.
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