軟質金属(SMe)とダイヤモンドライクカーボン(DLC)複合膜(SMe-DLC)の成膜法を確立することを目標とし、直径7~14 mmの金(Au)タブレットを直径50 mmの炭素ターゲット上に同心円状に配置した同心円複合ターゲットを使用した高周波マグネトロンスパッタ法によりSi(100)基板上にAu含有量が異なる膜厚500 nm±10%のAu-DLCを成膜し、大気中室温におけるJIS SUJ2鋼球との摩擦・摩耗試験を実施して摩擦係数推移を求め、前年度開発した透過電子顕微鏡(TEM)による摩耗量の定量評価を行い、同一金属含有量のCu-DLCとの比較を行った。その結果、摩擦開始初期においては垂直荷重0.5~5 Nの範囲においてAu濃度が増加するほどAu-DLCは摩擦係数は減少傾向示すが、Au含有量20at.%台の場合と40at.%台の場合ではほぼ同水準の値を示した。一方、摩擦距離が増加するとAu含有量10at.%台および40at.%台の膜の摩擦係数は上昇するのに対し、Au含有量20at.%台の場合は変化は見られなかった。摩擦試験後の摩擦面を光学顕微鏡で観察した結果、しゅう動初期のSUJ2鋼球摩擦面においてはAuを主成分とするトライボフィルムがいずれの垂直荷重条件においても形成されている一方、Au含有量が10at.%台の場合はしゅう動距離の増加に伴いトライボフィルムの被覆率が低下する傾向が見られた。また、Au含有量40at.%台の場合は膜の摩滅による摩擦係数上昇が発生しやすくなることが確認できた。 研究期間全体を通して得られた成果は、Au、Ag、Cuの三種類のSMe含有量を10~40at.%台の範囲で調製したSMe-DLC成膜法を確立し、電気特性評価を行うための4端子プローブ型比抵抗測定装置を製作し、TEMによる薄膜摩耗量の定量評価法を確立したことである。
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