本研究は,粘弾性流体の流れを支配する偏微分方程式の型変化が物体まわりの粘弾性流体の流れに与える影響を明らかにすることを目的としている.令和3年度は,一様流中に置かれた円柱の抗力を計測する実験装置を作成し,粘弾性マッハ数の条件を変化させたときの抗力のデータを取得した.また,並列円柱まわりの流れ,回転二重円筒内の流れ,および一様せん断流中の物体まわりの流れが,数値シミュレーションによって広範囲のデボラ数の条件で調べられ,計算格子上の各点で支配方程式の型の情報が得られた.研究期間全体を通して得られた研究成果は以下の通りで,粘弾性流体の流れの描像がより鮮明になった. 一様流中での支配方程式の型変化には粘弾性マッハ数のみが関係し,せん断波の波頭が拡がる半径は粘弾性マッハ数のみで決まること,半径方向の渦度分布はデボラ数のみによって決まり,デボラ数が小さいときは拡散型,大きいときは波動型の異なる様相を示すことがわかった.この研究成果は,Josephらが1985年の論文で理論的に示した粘弾性流体の流れの空気力学的描像にデボラ数の影響を考慮することで,実際の現象をより的確に表すモデルとなっている. Josephらの理論では物体による流れ場の変化が微小であることを仮定しているが,この仮定が成り立たない場合は張力の影響が現れて,張力が流体に貼り付いた状態で運動することや,張力のつなぎ換えが生じることが,実験や流れのシミュレーションで明らかになった.これは,微小擾乱の仮定が成り立たない場合,空気力学的な描像と磁気流体力学的な描像を念頭に置く必要があることを示唆している. 一様せん断流や回転二重円筒内の流れでは流体中に張力が生じており,支配方程式の型の境界面で渦度が集中する現象が捉えられた.これは,せん断波のみならず,張力によって伝わるアルベン波に相当する波を考慮することの重要性を示している.
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