本研究は,液体制御技術に利用可能な現象として注目されているエレクトロウェッティング(EW,電圧印加による濡れ性変化)について,その現象の本質を数値流体力学で表現するためのモデリングを行うとともに,制御に必要な知見を得る数値解析を行うことを目的とする.そもそもEW現象において本当に濡れ性が変化しているのか,それともそのように見えるだけなのかという疑問がある.この疑問を電気力学と流体力学を組み合わせた数値解析から解明し,EW現象の数値シミュレーションモデルを構築するのが目的である. この目的を達成するため,今年度は,(1) 昨年に引き続き,差分法による計算の欠点を克服できる計算手法である境界要素法に注目し,境界要素法による電気力学コードの開発を行った.昨年度開発した3次元版コードの動作確認・妥当性検証を丁寧に行った.電場中の液滴計算に対して,妥当な結果が得られるようになり,差分法では破綻する電圧条件などでの計算も可能になった.この結果は,学会講演会で発表した.(2) 固体面の濡れ性の表現のために,ベースとなるFront-tracking法による濡れのシミュレーションの高精度化を行った.浸透速度による高速な濡れのモデル,Adaptive Mesh Refinementによる局所格子細分化,相変化の生じる場合,について検討を行った.これらは学会講演会で発表を行った.(3) (1)の方法で,エレクトロウェッティングの計算を行うためには,固体の扱いを検討する必要がある.固体表面の表と裏での電場の違いなど,細部に注意を払ったモデリングを行い,低電圧時のEWの傾向(見かけ接触角の余弦が電圧の2乗に比例する)を再現しつつ,高電圧時に接触角が変化しなくなる接触角飽和の傾向も再現できた.論文化に向けて結果を整理中である.
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