本研究は,iPS細胞の高効率生産を可能にする「オンチップ微小液滴電気穿孔プロセス」を開発し,再生医療技術の発展に流体工学分野から貢献するものである.同プロセスの成否条件を探索するため,数値シミュレーションにより現象を可視化することで開発における設計支援を行う.特に,プロセスに含まれる物理現象,①細胞整列のためのディーン流れと慣性集束,②細胞を一つずつ分離するための液滴形成,③細胞膜穿孔のための膜電荷分布と細胞膜破砕,④DNA導入のための電気泳動について,計算手法を確立する.数値解析により,各現象の力学的メカニズムを解明し,さらに,プロセスの成否と流れ条件の相関を明らかにする.本研究により,プロセス実用化のための設計指針となる基礎データを体系化する. 研究期間全体を通じて実施した研究の成果について記す。まず,①について,ディーン流れによって本研究が必要とする細胞整列の効果を得るには,液滴が電極上を通過する速度の上限値では充足できない(足りない)ということが,数値解析と実験で確認された.今後,細胞クラスタを分離する別の手法を探索する必要がある.②について,液滴形成を安定的に実現する,界面張力,粘度の特性値分布を得た.③について,直流パルス印加による電気穿孔に関して,細胞の液滴内位置の変化に伴う細孔生成の特性を数値解析で整理することができた.本件について,2021年4月に日本機械学会論文集C編に論文掲載した.そして,当方および豊橋技科大の研究において,マイクロ流体デバイスのバージョンアップがなされており,今後は直流パルスではなく,交流パルスで電気穿孔するよう改善されているため,計算条件をこれに合うように再構成する必要が出てきた.④は,③と連成する形での数値解析を予定しているが,ネルンストプランク方程式を基礎式とする計算法について,数値解析法の検討に入っている.
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