研究課題/領域番号 |
19K04193
|
研究機関 | 鳥取大学 |
研究代表者 |
中井 唱 鳥取大学, 工学研究科, 准教授 (80452548)
|
研究分担者 |
後藤 知伸 鳥取大学, 工学研究科, 教授 (00260654)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 細菌 / 走化性 / べん毛 / 方向転換 / 誘引物質 |
研究実績の概要 |
A.単毛性細菌の走化性の計測と数理モデルへの反映 細菌は好ましい化学物質を検知し遊泳方向を変えることで、より高濃度の領域に集まる性質(走化性)を持つ。べん毛を1本のみ持つ単毛性細菌Vibrio alginolyticusを用いて、誘引物質セリンへ集まる挙動を計測した。昨年報告した周毛性細菌(Salmonella typhimurium)は様々な方向転換角度をとるのに対して、単毛性細菌の方向転換は前進・後退の切り替えにより起きるため方向転換角度分布が異なる。細菌の遊泳速度が同じだと仮定すると、誘引物質への集積はVibrio alginolyticusの方が5倍程度速いことが分かった。この方向転換角度の違いを考慮し細菌の集積度合を数値解析した所、計測で見られた差がほぼ再現できた。単毛性細菌の方向転換はほぼ真後ろに起きるため、誘引物質から離れる際の方向転換により高濃度領域に留まりやすくなるためだと考えられる。 B.ピエゾ駆動対物レンズを用いた走化性の3次元計測 ピエゾ素子により対物レンズを鉛直方向に振動させ、誘引物質存在下における単毛性細菌Vibrio Alginolyticusの遊泳軌跡の三次元計測を行った。ピエゾ素子の位置情報信号とカメラ映像を同期取込し、昨年度問題であった時間経過に伴う精度悪化を改善した。OpenCVを用いた画像処理によりピントの合った画像の抽出を行い、数マイクロメートル程度の精度で奥行方向の菌体位置を求められた. 上記の他に、昨年度の成果である「周毛性細菌Salmonella typhimuriumの走化性における方向角度分布の偏り」(誘引物質に向かう遊泳時の方向転換角度が小さくなる)について、誘引物質の種類や濃度を変えて調査を行い、この現象がSalmonella typhimuriumの走化性に見られる普遍的な現象であることを確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初は2019-2021年度の3年間で下記①②を実施する予定であった。 ①個々の細菌の遊泳・方向転換を観察し、走化性を表す数理モデルを再構築する。 ②細菌の密集状態における、①の走化性モデルの適用可能範囲を調査する。 ①については、今年度は単毛性細菌の運動について説明可能な数理モデルがほぼ確立されたと言える。また高精度な3次元計測システムも確立されつつある。②については計測系がまだ構築できていないが、①に関して当初の予定より多くの成果が得られた事により、上記のように判定した。
|
今後の研究の推進方策 |
まず上記「研究実績の概要」に関する課題の解決を目指す。A.の項目については、細菌の遊泳軌跡の詳細が数理モデルと合わない点(数理モデルには無い長距離の直進遊泳が観測される)があり、数理のモデルのさらなる改善を試みる。B.の項目については、画像処理による自動追尾を行い、長時間の3次元計測により詳細な細菌の挙動計測を目的とする。また、当初の目的②については、細菌集団中に蛍光色素で染色した細菌を数体混ぜ、集団中の個々の動きを計測する。細菌間の相互作用の有無により細菌数分布がどのように異なるかを調査する。 また、2019年度の成果「周毛性細菌Salmonella typhimuriumの走化性における方向角度分布の偏り」について、別の周毛性細菌(E.coli)を用いた計測を行い、この現象が周毛性細菌の走化性に共通するものかどうかを調査する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張がキャンセルになったため。次年度での計測のための消耗品購入費(試薬、ガラス器具など)に充てる。
|