本研究では抵抗低減と熱伝達率向上を同時達成することを目的として、酸化グラフェンナノシート懸濁液の流動抵抗および熱伝達性能を実験的に明らかにしたものである。 最終年度である2021年度においては、昨年度までに作製した圧力損失および熱伝達性能を測定可能な循環系の実験装置を用いて、酸化グラフェン+水、エチレングリコール、酸化グラフェン+エチレングリコールを対象として熱流動測定を行った。 本実験の結果、酸化グラフェンナノシート懸濁液は円管内流動の乱流域において、抵抗減少効果を有することが示された。濃度0.03wt%以上で低減効果を発揮し、その効果は濃度の増加と伴に増加することが分かった。その低減率は0.1wt%で最大40%以上を示した。さらに、酸化グラフェンナノシート懸濁液は上記と同様の条件で熱伝達性能向上効果を有することも示された。その効果は濃度と伴に増加し、最大96.1%に達することが分かった。一方、エチレングリコールに酸化グラフェンナノシートを添加した場合も抵抗低減と熱伝達向上効果を発揮することも分かった。 流動における抵抗低減効果を得れば熱伝達も同程度低減することは、「レイノルズのアナロジー」として良く知られている。このことは熱交換器など熱と流動が同時に生じる機器の性能向上を妨げる大きな要因であるが、これまではトレードオフの関係にある抵抗低減と熱伝達向上を達成する物質(添加剤)は存在しないと言われてきた。しかしながら、本研究で用いた酸化グラフェンナノシートは両者の特性を両立させる効果を有することが示された。これらの結果は、学術的にも十分意義あるだけでなく、熱交換器に代表される製品への波及効果も高く工業的な意義も高いと考えられる。
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