建築物の延焼防止手法である壁面への散水システムの最適化を背景に,壁面上の流下液膜による建築部材の受熱低減効果を定量化するために,輻射加熱壁面上の流下液膜を対象として,液膜形状・液膜内速度分布が乾き面発生に与える影響を解明することを目的として研究を行った.具体的には以下の2点について実験的に検討を行った. 1)非点収差PTVを用いた流下液膜内部の流速分布計測 液膜内に懸濁した微細な粒子の運動をカメラで捉えることで,液膜内の流速分布を計測する手法を開発した.さらに,光学系を工夫することで液膜厚さ方向の位置に応じて粒子の縦横比が変化するようにし,粒子の三次元位置を計測できるようにした.既存のカメラでは鉛直壁面を流れる液膜の流速は速すぎたため,傾斜面で流速分布計測実験を行うことで,計測手法の有用性を示すことができた.2)で液膜破断の加熱条件が明らかになれば乾き面発生時の液膜内流速分布が計測できるものと考える. 2)輻射加熱による液膜破断条件の解明 傾斜平板上に赤外線ヒータを複数設置し,流量・傾斜角・加熱量を実験パラメータとして表面張力の不安定性に伴う液膜破断条件を探索した.加熱ムラに起因する温度差マランゴニ対流による液膜破断を確認できたが,実際の火災に比べ加熱量が小さいこと,および,傾斜面で流下速度が小さいことが原因となり,既存の研究で報告されているような流下方向に平行な筋状の破断挙動は確認できなかった.輻射加熱でなく水膜が接触する平板を加熱した既往研究では筋状の破断挙動が確認されている条件であるため,輻射加熱に特有の破断条件が存在する可能性が示唆された.
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