研究課題/領域番号 |
19K04200
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
堀江 昌朗 摂南大学, 理工学部, 教授 (10388639)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ポンプ / スクリューポンプ / マイクロ波成形 / トルク低減 / 効率向上 |
研究実績の概要 |
自動車,食品,医療などの分野において低流量で高い圧力が得られる小型で効率の高いポンプの出現が待望されている.流量が毎分数リットル程度の仕様では一般的に容積型と呼ばれるポンプが使用されるが,このポンプは内部の密閉度を高くするために部品同士が接触し,磨耗や摩擦熱による液体成分の変性,機構が複雑で部品数が増すことによる装置の大型化などの問題がある.本研究は容積型ポンプの多くの問題を克服した低流量でも高い圧力を得ることができる高効率・小型二重回転スクリューポンプの開発を目指す.特にこのポンプの小型化と高効率化を実現するために,主要部品のステータをマイクロ波成型機を用いて樹脂で製作し,樹脂ステータと金属ロータとのトルク伝達性能の向上とポンプ内部の隙間における漏れ損失の低減について実験と数値解析により明らかにすることが目的である.さらに本研究の成果は,様々な容積型ポンプの小型・軽量化にも大いに貢献すると考えられる. 2019年度はポンプの小型化による性能評価,数値シミュレーションモデルの構築,マイクロ波成形機を用いた樹脂ステータの試作品の製作を実施した.ポンプの小型化ではポンプ主要部品であるステータを軸方向に約30%小さくした金属製ステータを作成し,ポンプ性能の比較を実施した.その結果,ステータ段数の違いがポンプ性能に及ぼす基礎的な知見を得ることができた.また,数値シミュレーションではロータおよびステータが回転する極めて複雑な数値解析モデルを作成し,実験結果との比較が行える状態にまで至った.マイクロ波成形機による樹脂製ステータの製作では,ABS樹脂ペレットによる成型品の試作を行い,温度管理や樹脂の収縮に関するデータを蓄積した.なお,これらに関連する研究成果は修士論文にまとめられ,また,日本機械学会においても発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では高効率・低比速度小型二重回転スクリューポンプの金属ロータと樹脂製ステータの間の回転トルク伝達特性と漏れ特性を明らかにすることを目的としており,期間内に主に次の2つの項目について検討を行う.1.ステータの材質がロータ回転トルクに及ぼす影響について実験的に明らかにする.2.ロータとステータの形状がポンプ性能と漏れ流れに及ぼす影響について数値解析と実験を行い,高効率・小型二重回転スクリューポンプの最適な形状について検討する. 1つ目の項目については,今年度は金属製(チタン)のステータを用いてポンプ性能評価実験を実施した.この結果から,金属製ステータを使用したときのロータの回転トルクは極めて低いことが明らかとなり,さらにポンプ圧力やポンプ効率も明らかにした.また,2019年10月頃からマイクロ波成形機による樹脂ステータの試作を重ねており,樹脂の成形にかかる温度管理や時間などの諸条件によって最終成型品の品質が大きく左右されることが明らかとなり,マイクロ波成形機による樹脂製ステータ製作のノウハウを蓄積した. 2つ目の項目については,ステータの段数が異なる2種類の金属製ステータを用いたポンプ性能の比較を行った,ここで,ステータの段数とはスクリューポンプの軸方向の流路内部に形成される二重螺旋状の流路のねじれピッチ数と同意である.その結果,ステータ段数が増すことにより漏れ損失は少ないことを実験的に明らかにした.また,数値シミュレーションにおいては,解析用の計算モデルを設計し,実験結果との比較を行える状態にまで至っている. 以上のことから,マイクロ波成形機による樹脂成形は時間を要しているが,他の目的については概ね計画通りに実施されている.
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる2020年度は引き続き,ステータの材質がロータ回転トルクに及ぼす影響について実験的に明らかにし,また,ロータとステータの形状がポンプ性能と漏れ流れに及ぼす影響について数値解析と実験を行い,高効率・小型二重回転スクリューポンプの最適な形状について検討する. 特に2020年度は本研究の要であるマイクロ波成形機による樹脂ステータ製作について注力する予定である.昨年度はマイクロ波成形装置の導入初年度であったため,母型の設計から種々の成型条件に至るまで試行錯誤であったため予想以上に時間を要した.このような状況の中でも母型への樹脂ペレットの充填方法,脱気方法,冷却方法など様々なノウハウを蓄積し,その結果,成型品の冷却時間や温度などの諸条件を最適化することにより,複雑な形状の趣旨ステータを所定の寸法に,また,表面性状も滑らかに成型できることが分かってきた.現在はABS樹脂を使用しているが,材質の異なる樹脂,例えば,テフロンのような摩擦抵抗の低い材料を用いてステータを作成し,ロータ回転トルクの低減が図れるか検討する予定である. このロータ回転トルクの低減効果は,本二重回転スクリューポンプの性能の向上が望めるだけでなく,摩擦熱による流体の変性や摩耗による異物混入が極めて少ない高効率・小型低比速度ポンプとして自動車,食品,化学,薬品,医療など様々な分野において利用でき得るものと考えている.さらに,ロータとステータの間の隙間を小さくすることにより運転開始時の呼び水が不要な吸引ポンプとしての利用も考えられ,これまでにない新しい用途での利用も期待できると考えている.なお,今年度の研究成果についても機械学会を始め関連する分野の学会で発表を予定している.
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次年度使用額が生じた理由 |
概ね計画通りに予算を執行したが,僅かではあるが繰越金が\5,510が生じた. この金額ではマイクロ波成形に使用する修正マスター型の購入ができなかったためである.次年度は,次年度予算と合わせてマイクロ波成形のマスター型の製作費および樹脂ペレットの購入に使用する予定である.
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