研究課題/領域番号 |
19K04201
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
永弘 進一郎 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (20419154)
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研究分担者 |
早川 美徳 東北大学, データ駆動科学・AI教育研究センター, 教授 (20218556)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 流体抗力 |
研究実績の概要 |
流体抗力が問題になる自発的に振動する系として,回転球がうける抗力があげられる。これはよく知られているように,回転の方向に依存して流れと回転軸に垂直な力が働き,これはマグナス力と呼ばれる。このような回転球が複数存在し,一方の伴流が他方に影響を及ぼす状況下では,球の表面における流れの剥離点位置の安定性が問題になる。 マグナス力における剥離点の位置は,マグナス力の方向を反転することが古くから知られ,これは逆マグナス効果と呼ばれている。逆マグナス効果はレイノルズ数か球のスピン比が一定値を超えたときに発生する。 マグナス力はスポーツにおいて重要な役割を果たすが,我々はソフトテニス競技においてよく知られているマグナス力の反転効果に着目した。それは,霧の環境下で球に働くマグナス力が容易に反転する現象である。つまりバックスピンをかけた打球は通常であれば,自由落下に比べて直線に近い軌道を描くが,キリが存在する場合は,鋭いカーブを描いて落下する。 我々は,この現象を実験室内で再現するために,マグナス力を精密に直接測定する装置と,風洞内に噴霧した霧の密度を計測する手法を開発した。その結果,風洞実験において,霧を流した状態で球に働くマグナス力を測定すると,その方向が不安定かすることを見いたした。その振る舞いから,マグナス力の方向について多重安定領域が素材し,分岐はサブクリティカル的であることを見出した。 霧の存在は,その多重安定領域の範囲になんらかの影響を与えているものと仮説を立てているが,詳しいことはまだわかっていない。それを明らかにするのが最終年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
回転する球に働くマグナス力を高精度に測定するために,ロードセルを用いて時間分解能の高い測定を行い,定常状態でのマグナス力を長時間測定し,結果をキャリブレーションすることで,精度を保証した測定することが可能になった。その結果,マグナス力が条件によって反転する振る舞いをはっきりと捉えることができるようになった。 しかし現時点での困難は,風洞内の霧の密度の定量的な測定にある。これはレーザーの霧による散乱を用いて測定することを試みている。霧の密度が高い場合には,数%ほどの透過光の減衰が得られる。天体写真に使われる高感度のカメラを選定し,レーザーによって局所的に照明を当てることで,霧粒をの直接撮影し,写真から体積あたりの粒をカウントした。このデータから正確なキャリブレーションを行い,レーザーの減衰率から,定量的に霧滴の密度を測定することが可能になった。しかし,通常の霧は実験室内での検出限界を超えて低密度であるために,現状では測定が困難である。 現在は,測定方法を改善するか,または別のアプローチから霧の影響を明確に評価することを考察中である。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において,マグナス効果と逆マグナス効果について多重安定領域が存在することがわかってきた。レイノルズ数とスピン比の二つの自由度をとった空間において,その多重安定領域をの範囲を実験的に明らかにし,今後の実験領域のターゲットを明確化することからまず取り組む計画である。これによって,実験を行うパラメターの選定を大きく限定することができる。 その後,霧の存在が多重安定領域に与える影響を議論する。現時点では霧滴が存在することによって,多重安定領域が大幅に狭くなる仮説を立てている。ただし,実験風洞においては,霧滴の密度を間接的に計測することが困難であるため,一定密度で霧を存在させるづける技術はまだ確立できていない。 一方で,PIV撮影用のシーディング装置から噴出させる油滴については,レーザーによる計測で検出可能であることから,on-off制御で密度を一定に保つ実験が可能である。まずは油滴が多重安定領域に与える影響を実験的に明らかにすることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナの影響により,予定していた学会発表にともなる国内出張,海外出張が実施されなかったため,旅費が消費できなかった。状況は最終年度も変化する見込みがないため,実験計画を修正し,物品費として消費する予定である。
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