研究課題/領域番号 |
19K04201
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研究機関 | 仙台高等専門学校 |
研究代表者 |
永弘 進一郎 仙台高等専門学校, 総合工学科, 准教授 (20419154)
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研究分担者 |
早川 美徳 東北大学, データ駆動科学・AI教育研究センター, 教授 (20218556)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 流体相互作用 / 逆マグナス効果 |
研究実績の概要 |
本研究計画では,流れの中でアクティブに定常振動する系に働く流体力と,それらの相互作用をテーマに研究をおこなっている.このような系の最も単純なものとして,一様流中の回転球が挙げられる.これは,流体工学にとどまらずスポーツ科学全般において重要なテーマであり,これまでに実験とシミュレーションの両面で多くの研究が行われてきた. 回転する球にはマグナス力と呼ばれる力が働くことはよく知られている.その力の大きさは回転速度と流速の積に比例し,バックスピンの場合は鉛直上向き方向に働く.これに対して,特定の回転速度と流速において力の方向が逆転する「逆マグナス効果」と呼ばれる現象がある.これは流れの剥離点の移動に伴って発生するが,その詳しいメカニズムはよくわかっていない.研究代表者はさらに空間に(自然界で発生する)霧が存在する場合に,極めて低密度で合っても逆マグナス効果の発生条件が大きく変化することを見出し,その条件を詳しく調べた. 回流型の風洞を用い,人工的に発生させた霧を流し込むことで実験室に環境の再現をおこなった.自然界の霧と同じ直径が数十μmの液滴を,スプレーノズルと超音波をもちいたそれぞれの方法で発生させた.すると,前者においては霧のない場合と比較して逆マグナス効果の発生条件が変わらなかったのに対して,後者では発生領域が拡大する傾向を見出した. 霧の生成手法の違いによって,逆マグナス効果の発生条件が変化する理由として,液滴の電荷に着目した.独自に測定装置を開発し液滴の帯電量の測定を行ったところ,超音波によって発生させた霧の方がスプレーノズルに比較して数倍帯電量が多いことが明らかになった.一方,帯電したサスペンジョンがある場合にたとえそれが低密度で合っても,特に小さな剪断速度の領域において,流体の実効的な粘度が大きく変化するという研究報告もあり,それらの関係について研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マグナス力の作用する方向が,回転速度と一様流の流速によって反転する「逆マグナス効果」に着目し,第一段階としてそれを実験室内で再現することを実現した.回流型の風洞を用いて,実験室において霧が存在する一葉流を再現し,逆マグナス効果の発生条件を詳細に調べた. 区分を「やや遅れている」とした理由は,以下に記した液滴の測定手法の実現に手間取ったためである. 実験条件を定量化するために,霧の液滴の密度を測定する手法を開発した.市販のレーザーポインタを用い,測定領域を通過後のレーザーの強度によって密度を算出する方法をとった.ミー散乱を仮定しレーザーの透過率から霧の密度を推定する計算式を考案,さらに顕微鏡下で霧を撮影することで,液滴の数を直接カウントして密度を求め計算式のキャリブレーションをおこなった.これにより,実験時の霧密度をリアルタイムで測定することを可能にした. 数十μmの液滴を生成する手法として,スプレーノズルと超音波を用いた.前者では逆マグナス効果の発生条件に変化がみられなかったのに対して,後者では発生領域が拡大することを見出した.その原因として,霧粒の帯電量の違いがあると予想し,次に電化の測定手法を開発した.並行平板の極板内に霧粒を誘導し,150Vから300Vの交流電圧を印加した上で,霧粒の挙動を顕微鏡下で高速度撮影した.得られた霧粒の軌跡から電化を測定することに成功した.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で,霧粒の電荷,密度,および大きさの測定には目処がついた.これによって,実験条件のコントロールが可能になった.またマグナス力測定制度はすでに十分な精度で実現ができている. 現時点ではマグナス力の反転に液滴の電荷量が影響していると予想している.帯電したサスペンジョンが流れに与える影響としては,特に低せん断率の領域において実効的な粘度が10倍から100倍増加するというShavlovらによる理論的な予想がある.今後は逆マグナス力の発生領域の変化が,この理論で説明可能かどうかの検討に移る.
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた出張が取りやめとなったため,旅費分の差額が生じた
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