本研究期間では、回転する球に働くマグナス効果と浮遊する微小液滴との相互作用が流れに及ぼす影響について、実験的な研究を行いました。小型の回流風洞を使用し、スチロール球に働くマグナス力を精密に測定する装置を開発し、風洞内における微小液滴の効果を調べました。スプレーノズルから注入された水滴が存在する場合のみ、マグナス力の逆転現象が顕著に観測されることを発見しました。しかし、対照実験としてラスキンノズルによるDOS滴やスモークマシーンによるPEG滴では、いずれも逆マグナス効果の発生は観察されませんでした。 そこで、風洞内に浮遊する微小液滴の密度測定およびサイズ測定を、定量的に行う必要が生じました。液滴のサイズ測定について、シリコンオイルに液滴をトラップし、顕微鏡で直径分布を観測することができました。しかし、液滴の密度測定にはより時間を要しました。最終的に、レーザーの散乱強度をCMOSカメラで測定し、パルスレーザーを用いて滴を直接撮影することで散乱強度をキャリブレーションする方法を採用し、実験中の粒子密度をリアルタイム測定に成功しました。以上から、水滴によるマグナス力の逆転は、液滴が1cm^3あたりに5000個程度の非常に低密度の領域で発生することが明らかになりました。 一方、水滴に限り逆マグナス効果の発生が観測される原因として、液滴の帯電が寄与している可能性を検討しました。そのために、我々は液滴の電荷を測定する装置も開発しました。その結果、水滴が平均10^-15C程度で、DOS滴とPEG滴の帯電は検出できませんでした。現時点では、滴の電気的な相互作用によって、境界層内に特定の波長を持つ波が誘起され、それによって剥離点の後退が起こる可能性を考察しています。 喫緊に実現すべき課題としては、粒子密度の測定精度を一桁改善し、逆マグナス効果の誘起が生じる液滴の臨界密度を見出すことを挙げます。
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