研究課題/領域番号 |
19K04205
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研究機関 | 佐世保工業高等専門学校 |
研究代表者 |
田中 泰彦 佐世保工業高等専門学校, 物質工学科, 准教授 (10512692)
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研究分担者 |
城野 祐生 佐世保工業高等専門学校, 物質工学科, 教授 (80353233)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ファインバブル / マイクロバブル / マイクロガストランスポーター / ガス収納とガス放出 / バブル安定化 / バブル機能化 / バブル発生の検出 / 分子吸着 |
研究実績の概要 |
オンコンプレックス膜で分子膜被覆したバブルの安定化機構の解明に取り組んだ。昨年度までの実験で,被覆分子の組み合わせにより膜被覆バブル同士が一つになる,いわゆる「合一」現象を捉えたことを端緒として,膜被覆バブル同士の合一について,その形成メカニズムについて調査した。また,安定性の評価と並行して,膜中分子の酸化還元反応をトリガーとして,分子膜被覆バブルを意図的に崩壊させる(ガス放出)機構の構築実験も行った。 バブルを分子膜被覆する際の一層目の被覆分子として,正・負電荷を有する双性分子(ベタイン),二層目の被覆分子として正電荷を有する分子(ポリアリルアミン)を組み合わせた場合,形成される分子膜被覆バブル同士が合一する。この合一現象は,複数回にわたり起こる場合があり,数珠繋ぎもしくはブドウの房のようなクラスター状態へと成長していくことが分かった。また,このようなクラスター状態は,分子膜被覆バブル同士の合一が見られない,一層目に正電荷分子(ビピリジニウム),二層目に負電荷分子(ポリスチレンスルホン酸イオン)の組み合わせで形成される分子膜被覆バブルの場合においても,溶液中にマグネシウムイオンやカルシウムイオンなどの2価の陽イオンを加えた際にも観測されることが分かった。分子膜被覆バブルの最外殻の表面電荷を,吸着分子,もしくは後からの荷電イオン添加により制御することで合一・非合一を制御できることを示唆するデータが得られる。この結果は,ガスを収納した分子膜被覆バブル同士をクラスター化させ,所定の容積内に高密度化して保存するようなニーズに展開が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子膜被覆バブルの安定化機構について,被覆分子の組み合わせを変えた実験,および溶液内へのイオン添加の実験により,分子膜被覆バブルの形成,および形成後のクラスター化を制御できる因子を明らかにしつつある。形成した分子膜被覆バブルの経時変化は,週・月単位で安定であることは明らかになったが,さらに長期の安定性に関しては継続した調査が必要である。 ガス放出機構の構築実験においては,分子膜中の還元性分子であるアルキルビピリジニウムの還元をトリガーとして,バブルを被覆している分子膜を引き剥がせると予想していた。これまで化学的な還元(溶液内に還元剤である水素化ホウ素ナトリウムの添加),電気化学的還元(分子膜被覆バブルを含む溶液に電解質を加えた溶液で三極式の電解セルを組み,アルキルビピリジニウムが還元される電位まで電圧引加)を試行したが,これらの手法では分子膜被覆バブルの崩壊,すなわちガス放出に至っていない。しかし,一連の実験で作製した分子膜被覆バブルは,化学的還元および電気化学的還元に対して,予想以上に安定であることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験でバブルを分子膜被覆により安定化させる機構について明らかに出来つつあるが,本研究が目指すガス放出機構の構築のためには,安定であった膜被覆バブルを意図的に崩壊させる機構も必要となる。これまでの一連の実験で用いた分子の組み合わせで形成した分子膜被覆では,分子膜を意図的に崩壊させるには安定すぎると考え,あえて不安定になる要素を被覆する分子に用いる計画である。具体的には,バブルを被覆する一層目の分子,アルキルビピリジニウムのアルキル鎖の長さを変える。これまでの実験により,アルキル鎖長の炭素数,つまり疎水基部分の大小により,バブル表面への吸着性が変わり,分子膜被覆バブルの形成の有無があることを明らかにしている。この結果から,形成の有無の閾値となる吸着分子の疎水性を,アルキル基の長短を制御した分子を設計・合成して用いることで,意図的に安定性を下げた分子膜被覆バブルを作製し実験を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響で発表予定だった学会がオンライン開催だったため,旅費が当初の計画よりかからなかった。差額は,実験計画で挙げている機能化ファインバブルによるガス収納と放出のデモンストレーションのため,分子設計合成のための試薬購入および必要器具の購入のために使用する計画である。
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