研究課題/領域番号 |
19K04216
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉田 英生 京都大学, 工学研究科, 教授 (50166964)
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研究分担者 |
岩井 裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (00314229)
岸本 将史 京都大学, 工学研究科, 特定助教 (10757636)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 固体酸化物形燃料電池 / 3Dプリント / 非ニュートン流体 / メゾ凹凸界面 |
研究実績の概要 |
初年度目はまず,セラミックス3Dプリントに用いるインクの物性の温度依存性を調べた.SOFC燃料極の材料となる無機粉末を有機溶媒に懸濁したインクを調整し,その流動特性を複数の温度で測定した.まずは有機溶媒としてエタノールを用い,回転式粘度計を用いて粘性を測定したところ,温度によって有意に粘性が変化した.具体的には50℃の場合は30℃の場合と比べて半減した.ただし粘性自体は10Pa sに満たないことや,エタノールが加熱により蒸発しやすいことから,加熱を伴う3Dプリントのインクとしては不向きであった.そこで本研究により適した高粘度かつ加熱に耐えうるインクを得るため,テルピネオルを用いたインクを調整した.その粘性を測定したところ,同様に温度によって有意に粘性が変化した.加熱しても蒸発が遅く,かつインクの粘性が10の4乗Pa sのオーダーで形状を維持しやすいことから,今後はこちらのインクを使用することとした. 次に,プリントに用いるインクとプリント対象物の温度を独立に制御するための装置を構築した.構築済みのセラミックス3Dプリント装置を改良し,ペルチェ素子を導入することによりインクを吐出するマイクロノズルおよびプリント対象物を固定するステージの温度を制御した.まず,ノズルの加熱によりインクの粘性が低下したことで,インクがノズル中で詰まる問題が生じにくくなり,ノズルの内径を小型化することができた.これにより3Dプリントの高精細化が期待される.また,加熱によってインクの物性が変化したことにより,プリントした線状パターンの幅を20%程度小さくすることができた.これは粘性の低下による効果よりも,インクとプリント対象との間の濡れ性が変化したことが原因であると考えられる.一方でプリント対象を冷却しながらプリントすると,線状パターンにムラが生じた.原因については不明であるため今後解明を行う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
セラミックス3Dプリントに適した懸濁インクの調整と,その物性の温度依存性を解明するという点において,ほぼ目的を達成できた.インクの粘性が温度によって有意に変化することから,温度制御を行うことが,プリントによって実現できる形状の自由度を高めたり,精度を向上したりすることにつながることを示すことができた. また,インクを吐出するノズルおよびプリント対象物を固定するステージの温度を独立に制御する装置についても,そのプロトタイプを構築することができた.
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今後の研究の推進方策 |
3Dプリントに用いるインクの重要な特性として,初年度に測定した粘性以外にも,プリント対象物との間の濡れ性が挙げられる.初年度の結果から,プリントした線状パターンの形状に濡れ性がおよぼす効果が無視できないことが示唆されたので,2年度目はインクのSOFC支持体上における濡れ性を複数の温度において測定し,その傾向を調べる.その上でインクの粘性と濡れ性の温度依存性から,どのような温度制御を行えばより高精細なパターニングが可能になるかを検討する.また,高精細化にはインクの吐出を行うマイクロノズルの内径を小さくすることも必要であるため,インクの流動特性を温度制御によって変化させ,より小さなノズルでも安定的に吐出することを可能にする.さらに,プリント対象物を冷却することの効果をより詳細に明らかにする.初年度においてプリント対象物の冷却によってパターンにムラが生じる現象が見られたため,安定して一様な線状パターンがプリントできる条件を探すことが必要である. 初年度目においてマイクロノズルの加熱,およびプリント対象物を固定するステージの冷却が可能な3Dプリント装置のプロトタイプを構築したが,2年度目にはそれをより改良し,安定的かつ精度の高い温度制御を実現する. 2年度目の目標として,線状パターンのスケールを現状の100ミクロン程度から50ミクロン程度まで高精細化することを目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度構築した温度制御機能付き3Dプリント装置のプロトタイプにおいては,温度制御用のペルチェ素子を直流電源を用いて駆動させており,マイクロノズルやステージの温度は成り行きで変化していたので,当初導入予定であった温度コントローラーを使用しなかった.本年度の検討ではそれで充分であったが,今後より精密な温度制御を実現するためには必要となるため,2年目に請求する予算と合わせて購入を検討する.それ以外の設備備品および消耗品については当初計画通りの使用を予定している.
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