研究実績の概要 |
本年度は,細胞試料を6℃付近で冷温保存したときの任意時間保存中の電気インピーダンスの変化と保存後の生存率をつき合わせて,能動輸送が停止しない最低温度を明らかにすることを目的とした. ラット心臓横紋筋細胞を培養皿または電極付チャンバ(Alpha MED Scientific Inc., MED-P5155)の底面に一定数播種し24 h単層培養したものを試料とし,保存液には培養液を用いた.まず,能動輸送停止温度を調べるため,培養皿試料を容器に入れ4, 5, 6, 7℃で3,6,12 h冷温保存した.保存後,細胞生存率の評価にはWST-8を用い,生成物質の水溶性ホルマザン産生量を分光光度計で測定した.また,細胞膜の電気的特性変化から能動輸送停止の有無を確認するため,電極付チャンバ試料に20 kHz・10 μAの電流を加えて,冷温保存(4, 5, 6, 7℃)中の細胞の一次元的電気インピーダンス(3, 6, 12 h)を測定し,試料温度が設定温度に平衡する3 hを基準とした比率として求めた.その結果,細胞生存率はどの温度でも3 hと比べ12 hの方が少し低下したが,4℃と5℃よりも6℃と7℃の方が高くなった.また,冷温保存3 hと比べ12 h後の電気インピーダンスの比率は4℃と5℃において大きく減少したが,6℃と7℃ではほとんど減少しなかった. それと並行し,電極付チャンバ試料を用いて,4℃の冷温保存における電気インピーダンス測定値(10kHz値/100kHz値の比率)と細胞生存率の時間依存性について検証した.その結果,その比率と細胞生存率に相関が見られた. 成果として,電気インピーダンス計測により能動輸送の停止の有無が判別できること,能動輸送停止回避の最低温度は6℃付近にあること,そして,能動輸送の停止は細胞生存率を大きく低下させる要因となることが示唆された.
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