本年度は,本課題をまとめるために,補充的な実験を行いこれまで得られたデータについて検討を行った.なお,実験方法はこれまでと同様であった. まず,キセノンガス加圧溶解が有る無しそれぞれの条件で4,5,6℃における0~72時間冷温保存後の細胞生存率(比較的長時間保存後の時間依存性)を調べた.次に,昨年度の電気インピーダンス測定結果について能動輸送の停止と細胞生存率がどのように関わっているかを検証するため,細胞試料を能動輸送が停止すると考えられる4℃で冷温保存した場合の任意時間保存中の電気インピーダンスの変化を調べ,保存後の生存率をつき合わせて検討した.また,過去の別の研究である加熱処理後の電気インピーダンスと細胞生存率の測定データも利用して,細胞の生死による電気インピーダンスの違いに関わる要因と電気等価回路モデルについて検討した. 成果は次の通りである.キセノン加圧溶解が無しの場合は保存時間が24時間までは能動輸送停止と見做せる4,5℃よりも停止しないと見做せる6℃の方が遙かに高い生存率となった.キセノン加圧溶解が有りの場合は温度によらず保存時間が24時間では高い効果を示したが72時間では僅かな効果だった.また,能動輸送の停止の影響は24時間以内に現れ,電気インピーダンスの低下を伴うこと,そして,細胞生存率と電気インピーダンスそれぞれの低下が強く相関することが明らかとなった.能動輸送停止に伴う細胞生存率低下の要因として,冷温保存中の能動輸送の停止に伴う細胞膜の完全性の喪失による絶縁抵抗の低下が示唆された.また,生細胞と死細胞で細胞膜の電気容量の変化は殆ど無いことが示唆された.
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