低凝固点水溶液中の氷層の融解はエネルギー貯蔵とも関連し,近年多くの注目を集めるようになったが,現象はかなり複雑で不明なことが多く残されている.そのような理由から本研究では,まずは情報が少ない拡散係数に対する詳細な考察を行った.基本的には,Stokes-Einsteinの関係式を用いたが,その補正にKholodenkoとDouglasの研究を用いた.さらにサスペンションに対して研究され,粒子径依存性も考慮しているVajjha,Das,Chukwuの粘性に対する研究も利用して拡散係数を予測し,それを用いて融解量予測式を導いた. 次に,実際に低恒温室内で水平氷板の融解実験を行い,その結果と今回提案した予測式による結果との比較を行った.その結果,今回の予測式に含まれる定数を正しく選ぶと,溶質が塩化カルシウムまたは塩化ナトリウムの場合にはかなり良く実験結果と一致することが分かった.しかしながら,溶質が塩化ナトリウムの場合には実験結果と予測結果との一致がこれらに比べて悪いことも明らかとなった. これらの結果が得られた原因を探るため,融解面近傍の流れの可視化実験を行った.その結果,溶質が塩化ナトリウム場合には,他の溶質の場合と比べて水溶液中の自然対流が長時間にわたって維持されることが明らかとなった.しかしながら,その理由についてはまだ不明なことが多い.ただ,固体塩化ナトリウムを水に溶かすと吸熱反応が生じ,固体塩化カルシウムまたは固体塩化マグネシウムを水に溶かすと発熱反応が生じることは注目に値する.すなわち,溶質が塩化ナトリウムの場合には,温度分布や速度分布の詳細が他の溶質の場合と大きく異なり,予測式を導く際に用いた仮定が成り立たなくなり,予測精度が落ちたのではないかということが予想された.もちろん,これだけで結論を下すことはできず,さらなる研究が必要なことは明らかである.
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