火花点火過程における放電特性が着火安定性に及ぼす影響を明らかにすることを目的として,試験用単気筒エンジンを用いた燃焼実験を実施した.特に,着火安定性の向上が課題となる希薄高流動条件,および触媒暖気条件を模擬したリタード着火条件における着火安定性に火花放電特性が与える影響を調べるため,三種類の放電特性の異なるコイルを用いて燃焼・可視化試験を実施した. これらの結果,希薄・高流動条件では,放電電流の増大によって,放電路の吹き消えの抑制や高エネルギー化によりリーン限界を拡大できることがわかった.一方,触媒暖気条件においては,放電期間の短いコイルでの燃焼安定性が低下した一方,高電流化,高エネルギー化を進めても着火安定性の向上にはつながらない.すなわち,リタード点火時の着火安定性を向上するためには,放電期間の長期化が効果的であることが明らかになった.放電エネルギーの伝達効率の比較から,リーン条件では高電流化により投入エネルギーが上昇するが,リタード条件ではエネルギー効率が低下し高電流化,高エネルギー化の効果が得られないことが示された.リタード条件においては,吸気圧の低下により要求電圧が低下し,回転数の低下と点火時期の遅角によってプラグ周辺流速が減少する結果,放電路伸長が小さくなるため,エネルギーの伝達効率が低下すると考えられる.
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