近年,フォノン解析などを用いて熱伝導メカニズムの微視的検討が行われているが,金属などでは自由電子の寄与が支配的なため純粋に理論的な評価は行われていない.また,微細化が進む半導体配線では,格子欠陥に起因した電気/熱抵抗が顕在化することが問題となっているが系統的な研究はなされていない.Wiedemann-Franz則にも示されるとおり,電気特性と熱特性には自由電子の寄与という共通項があるため強い相関がある.本研究では格子欠陥近傍の局所的な熱/電気特性の変動を予測可能な評価システムを開発する.自由電子の影響を考慮に入れた簡易評価方法として,原子間に仮想的な電気抵抗を考慮した抵抗回路網を仮定した.本回路網からKirchhoffの法則を用いて3次元の原子モデルに基づき合成抵抗を算出できるプログラムを開発し,様々な影響を考慮したところ,<100>方向と<110>方向で電気抵抗に差が生じる結果となった.一方で,銅単結晶材を用いて微小抵抗測定システムを用いた評価を実施した.微小抵抗であることと,様々な環境ノイズによって測定には困難が伴うものの,結晶方位によらず,ほぼ一定の電気抵抗となった.一方,半導体配線試験体を対象として,電流印加後の高温保持試験をおこない,それぞれエレクトロマイグレーション,ストレスマイグレーションと見られるボイドの発生や成長,それに伴う電気抵抗の上昇を確認した.特に,表面に露出した銅配線の高温保持試験では,絶縁膜による拘束や電流ストレスの寄与がないにも関わらず,多数のボイドが観察された.これは配線に内在する初期欠陥濃度が高い試験体であることを示唆する結果であり,得られた実効的な抵抗値変動とシミュレーションから予測される個々の欠陥の寄与とを比較することで,提案モデルの検証に繋がることが期待できる.
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