研究課題/領域番号 |
19K04244
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
一柳 満久 上智大学, 理工学部, 准教授 (00584252)
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研究分担者 |
鈴木 隆 上智大学, 理工学部, 教授 (20206494)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 熱工学 / 熱機関 / アンモニア燃焼 / ゼロエミッション |
研究実績の概要 |
低炭素社会の実現に向けて,水素キャリアでのアンモニア(NH3)利用は実用間近だが,NH3を燃料とした自動車用エンジンの実現には至っていない.主たる要因は,NH3は従来の燃料と比較して保炎範囲が狭く燃焼速度が遅いこと,発火点が高いことが挙げられる.NH3単一燃料のエンジンを実現するためには,燃焼方式として副燃焼室付きの予混合圧縮自着火を採用し,冷間始動が可能な燃焼室設計及び定常運転試験による適切な燃焼条件の導出が必要である.本研究では,定容燃焼器及び3次元CFDを用いて主及び副燃焼室設計を行い,定常運転試験にて燃焼条件の最適化により,冷間始動可能なカーボンフリーNH3エンジンを開発することを目的としている.
この目的を実現するため,①定容燃焼器及びシミュレーションに基づいた燃焼室の設計,②定容燃焼器を用いたNH3着火条件の検証及び燃焼状態の計測,③主及び副燃焼室を作成し,NH3エンジンの温間始動実験及び定常運転試験による燃焼条件の最適化,④予熱器を併用した冷間始動実験を行う予定である.
2019年度の研究成果は2点ある.1点目は,金属製の定容燃焼器を用いて,NH3の着火条件の検証を行ったことである.定容燃焼器の形状は,3次元CFDの結果を基に設計した.この結果より,NH3と空気で構成される混合気の温度を,ガソリン燃焼よりもかなり高温にする必要があることがわかった.このため,ディーゼルエンジンに使用されるグロープラグを用いて混合気温度を上昇させる案を提案した.2点目は,NH3燃焼の問題である遅い燃焼速度を解決するため,実機エンジンを用いて,NH3燃焼と同等の燃焼速度であるラムダ2(供給される空気量/理論的に必要な空気量であり,非常に希薄な燃焼のこと)程度のガソリンエンジンにて燃焼実験を行ったことである.この結果より,燃焼速度の遅い条件にて,混合気の温度の条件や点火時期等を検討した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画では,2019年度は,金属製の定容燃焼器を用いて,NH3の着火条件の検証,排気成分の分析及び冷却損失の計測を行うことであった.その予定に対し,定容燃焼器の形状を3次元CFDの結果を基に設計し,金属製の定容燃焼器を用いて,NH3の着火条件の検証を行った.これにより,混合気の温度を,一般的なガソリン燃焼時よりもかなり高温にする必要があることが明らかとなった.このため,通常はディーゼルエンジンに使用されるグロープラグを用いて混合気温度を上昇させる案を提案した.これらのことから,おおむね研究は順調に進展していると考えられる.
それに加えて,当初の研究計画では,次年度以降に実施予定であった実機エンジンを用いた燃焼研究も行った.NH3燃焼の問題である遅い燃焼速度を解決するため,NH3燃焼と同等の燃焼速度である希薄なガソリン燃焼実験を行った.燃焼速度の遅い条件でも燃焼するように,定容燃焼器の知見で得られたグロープラグ付きエンジンを用意して実験を行った.実機エンジンでは,混合気の温度条件に加えて,点火時期等も検討した.これらのことから,おおむね研究は順調に進展していると考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は,金属及びガラス製の定容燃焼器におけるNH3燃焼実験及びシミュレーションを用いて,実機エンジン用の主及び副燃焼室の設計を行う.金属製定容燃焼器における燃焼実験では,NH3の可燃当量比範囲を把握する.また,NH3の燃焼特性把握のため,ガラス製定容燃焼器における可視化燃焼実験を行い,燃焼状態を把握する.さらに,把握した燃焼条件に基づきシミュレーションを行い,主及び副燃焼室及びシリンダ全体の構造設計を行う.なお,本研究では,シリンダヘッドの中央部に副燃焼室を設置し,その内部で燃焼させた燃焼ガスを主燃焼室に噴射する.主燃焼室に設置した特殊形状(フラワー型)ピストンにて燃焼ガスを誘導させることで,筒壁近傍の未燃燃料を圧縮着火させる予定である(副燃焼室付き予混合圧縮自着火を採用する予定).主燃焼室に設置するフラワーピストンの形状を決定のため,プロパンを用いた燃焼実験及びシミュレーションを行う.
2021年度は,実験装置の改造工事を行い,温間始動による定常運転試験を行う.温間始動を可能とするため,シリンダ頂部にある軽油インジェクタを排気ポートへ移し,ヘッド中心部にはNH3インジェクタとグロープラグを有する副燃焼室を別途設置する.予混合圧縮自着火による安定した定常運転を実現するため,軽油を用いて暖機させ,筒内温度がある一定値を超えたら燃料をNH3に切り替えることで,温間始動による定常運転試験を行う.
2022年度は,NH3エンジンの冷間始動を実現させる.冷間始動実現のため,2021年度に改造した副燃焼室付きエンジンと予熱器を併用して,冷間始動運転実験を行う.温間始動時の実験結果を基に,冷間始動時の最適運転条件を選出して冷間始動を実現させる.
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