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2020 年度 実施状況報告書

ポリイミド混合体の特性を活用して超低温冷却を高効率化する熱交換器の開発

研究課題

研究課題/領域番号 19K04251
研究機関国立研究開発法人産業技術総合研究所

研究代表者

中川 久司  国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (90392638)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2022-03-31
キーワード熱交換器 / 多孔質体 / 微粒子 / ポリイミド / ポリグリコール酸生分解性プラスチック / 希釈冷凍機 / カピッツァ熱界面抵抗 / 熱スイッチ
研究実績の概要

本研究の目的は、超低温冷却を高効率化する、ポリイミド(PI)とポリグリコール酸生分解性プラスチック(PGA)との混合体(PI混合体)などからなるプラスチック製多孔質体熱交換器の創出、さらにプラスチック多孔質体と液体ヘリウム間の超低温熱輸送機構を明らかにすることにある。
2020年度は、PI混合体の多孔質化技術の確立を目指し実験をすすめた。PI微粒子の焼結にはPGAの融点以上の温度が必要で、PIの焼結前にPGAが溶解してしまうことが明らかになり高温圧縮法によるPI混合体の多孔質化は困難であることがわかった。通常、金属微粒子では、表面積効果によりバルクの融点より遥かに低い温度で焼結される。しかしPIにおいては、そのバルクが極めて高い耐熱性をもち、明瞭な融点がない物質であることを反映し、たとえ微粒子状であっても、体積比で50%程度の気孔を有する多孔質体形成は難しいのではないかという考えに至った。一方、希釈冷凍機温度より高温の約1 Kにおいて、研究代表者が開発してきた銀粉末多孔質体が、超冷中性子生成時の放射線発熱による温度上昇を抑制する熱交換器材として利用できないかを検討し、弊所の成果発表会で報告した。
極低温熱界面抵抗の測定システムを設計、構築して無冷媒希釈冷凍機にインストールした。多孔質体サンプルと液体ヘリウム間の温度差を精密測定するためのカーボン抵抗温度センサを製作した。それらを液体ヘリウム中で校正するための校正セルおよび多孔質体サンプルの熱界面抵抗を測定するための実験セルを設計、製作した。現在、温度センサの校正実験に着手したところである。
ガスギャップ熱スイッチと超伝導熱スイッチによる無冷媒希釈冷凍機の予冷時間を短縮するため、ガスギャップ熱スイッチを新しく設計、製作した。すでに気密性検査も完了し、それらを希釈冷凍機にインストール、テスト実験を開始したところである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

PI混合体の多孔質化技術の確立については、PI自身の特性により、当初の思惑通りの多孔質体の作成には至っていない。また銀粉末とPI粉末との混合体の多孔質化について、実験的に検討した。PI焼結温度が銀粉末のそれよりも高く、様々な混合比のサンプルを用いて高温圧縮法によるサンプルを作成したが、これまでのところ、PI微粒子と銀微粒子とが強固に接着して、適度な気孔体積を有する多孔質体として共存するような多孔質体の作成には至っていない。そこで、難接着性ではあるが、明瞭な融点があり、極低温での熱界面抵抗がPIと同程度以下に小さなPTFE微粒子に着目し、その多孔質化の実験的検討をすすめることにした。多孔質体を熱交換器形状にする場合、冷媒ヘリウムを仕切る母材上にその多孔質体を熱的・機械的に強固に接合させる必要がある。PTFEは極低温下で強固に接合する方法は自明ではなく、今後は、PTFE多孔質体の母材への接合方法についても実験的に検討する。
熱界面抵抗測定システムの構築を計画通り、完了することができた。液体ヘリウム中での温度センサ校正および熱界面抵抗測定用実験セルの初回設計では気密性を保つことができなかったが、その結果を踏まえ極低温真空シールが確実に可能で、サンプル交換が容易な新しいセルを設計・製作することができた。今後の実験の進展を加速させることが期待できる。
ガスギャップ熱スイッチと超伝導熱スイッチによる無冷媒希釈冷凍機の予冷機構を開発した。昨年度の予冷実験の結果を踏まえ、ガスギャップ熱スイッチにおいてその性能を決める熱交換器表面積をこれまでの4倍に増加、さらに、熱交換する銅ブロック間のギャップを1/10以下の100 um以下にすることで、極低温下でも冷媒ヘリウムが粘性流体領域で効率よく熱伝達を行えるようなものとした。これにより予冷時間をさらに短縮、今後の熱界面抵抗実験の効率化が期待できる。

今後の研究の推進方策

当初期待していたPI混合体の多孔質化技術の確立は、PIの物理的特性から困難であることがわかった。そこで、プラスチック微粒子の多孔質化技術の確立において、今後は、PI単体、およびそれと同程度に熱界面抵抗が小さく、明瞭な融点を有するPTFE微粒子の多孔質化実験を中心にすすめることにする。
新しく開発した希釈冷凍機予冷機構の試験を行い、予冷時間の大幅な短縮を試みる。またサンプル交換が迅速に行える新しい設計の実験セルを用いて実験を効率的に行えるようにする。
多孔質化技術の確立のための実験と並行して、熱界面抵抗測定用の温度センサの校正をすすめる。開発した温度センサを用いて熱交換器材としての性能基準となる銀粉末多孔質体からはじめ、本研究で開発を進めているPI多孔質体およびPTFE多孔質体などのプラスチック製多孔質体熱交換器材の希釈冷凍機温度における熱界面抵抗の測定実験を実施する。さらに化学的に作成されたPI発泡体についても、熱交換器材として利用できるかどうかを検証するため、前記同様の熱界面抵抗を測定する。以上の超低温下における熱界面抵抗実験から、プラスチック多孔質体の熱交換器材としての性能を評価するとともに、プラスチック多孔質体と液体ヘリウム間の熱輸送現象について詳細に調べる。

次年度使用額が生じた理由

熱界面抵抗測定用の実験セルには、その内部が極低温の液体ヘリウムで満たされ、極めて高い気密性が必要である。初回設計で製作したセルの極低温真空シール部分は気密性を保つことができなかった。そのため、真空シール部分を再設計し、弊所のTIA共用施設試作室にてその製作を行っているが、それらの部品納期が、次年度になるため、試作費用として、本予算を使用する。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2020

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 極低温下における超冷中性子コンバーターの温度上昇を低減する熱交換器の研究2020

    • 著者名/発表者名
      中川久司、島崎毅、川崎真介、岡村崇弘
    • 学会等名
      2020年度計量標準総合センター成果発表会

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公開日: 2024-12-25  

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