研究課題/領域番号 |
19K04260
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
仰木 裕嗣 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 教授 (90317313)
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研究分担者 |
成田 健造 慶應義塾大学, 政策・メディア研究科(藤沢), 特任助教 (70836999)
谷川 哲朗 大阪国際大学, 人間科学部, 講師 (90615452)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 水泳 / 水中聴覚 |
研究実績の概要 |
本研究は,「遊泳中のヒトが水中および水面付近においてどのようにして音を聴いているのか?」という生理物理現象を明らかにすることを第一の目的とし,さらに「遊泳中のヒトに対して音声や音響によって情報伝達を行う場合にはいかなる音源を選択すれば良いのか,その指標を提示する」ことを第二の目的としている.研究は段階を追って,実際にトレーニング中に様々な泳法で泳いでいる状況を想定して,泳者がどのように音を聴いているのかを明らかにすることを目指している.そのため,静水中に泳者を模した被験者が着座した状態で水中音源から出る音を聴く,という基本的な実験からスタートし,最終的にはプール内で泳動作中に聴いているであろう音がどのようなものであるのか検証していくことを予定している.研究計画初年度の令和元年度はそのための基礎的な取り組みを実施した.具体的に行ったことは,静寂環境下における水中に没したヒトが聴く聴覚特性の観測実験であり,今後のプールにおける泳動作中の聴覚特性計測実験のための基礎的検討を行うための実験である.従前に行った研究ではヒトが泳ぐ際に,その周辺に配置したマイクロフォンによる音収集であったのに比べて,本研究ではヒトの耳にきわめて近い場所での音収集を行うために,顔周辺に固定するマイクロフォンやそれが泳動作に影響を及ぼさないか,といったチェックなど2年目以降の準備ともいえる研究実験に終始した.音源からは周波数の異なる正弦波を出力し,これをどのレベルの音圧で認識できるか?ということを水面境界面,水面下,で聴き取りを行った.研究計画2年目には泳動作中において同様の実験を計画している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画1年目の令和元年度は,計画調書に述べたように(i) 静寂環境下の狭小水槽・回流水槽における泳姿勢を想定した水上・水中頭部周りにおける音響測定とヒトの感性計測,および実験データの分析,を実施した.実験環境としては予定していた狭小回流水槽ではなく,スクーバダイビングトレーニング用のプールを用いた.まず本研究を進める上では,音源設置と泳者に相当する被験者の配置に関するノウハウとを蓄積する必要がある.音響計測実験自体を成立させるためは被験者が長時間にわたってプール内に留まらざるを得ないため,ウェットスーツ,もしくはドライスーツを着用したり,また水中マイクロフォンの取り回しであったり,装置・ケーブルの取り回しなどの演習などから実験のためのノウハウ蓄積から始めた.実験に際しての最大の懸念は雑音である.これは音源のノイズという意味ではなく,水中伝搬の音響ではプール壁面,床面等から侵入する振動を音源とするものが大きくその成分としてエネルギーを持つことに由来する.すなわちプールのある建物自体の空調や生活音といったものが混入する可能性が高い.こうした雑音の状態はプール環境に依存しており,適切な処理を施して除去する必要がある.研究に用いる水中スピーカーは計画通りに購入し,稼働しておりこれを用いた実験では被験者に対して音源からは周波数の異なる正弦波を出力し,これをどのレベルの音圧で認識できるか?ということを水面境界面,水面下,で聴き取りを行った.実験環境の大気中の体感では静寂を感じる程度であっても,水中においてはやはり建物全体から伝わる振動が伝搬して伝えられる.これを骨導によって聴く被験者にとっては音源に乗るノイズとも感じ取られる.また過去の研究でも指摘されているように,正確な定量評価はできないものの高周波側には感度が高い傾向が見られた.
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今後の研究の推進方策 |
計画調書では,研究2年目には,(ii) 屋内プールにおける,静寂環境下,および他の泳者の存在する環境下における泳者頭部周りにおける音響測定とヒトの感性計測,および実験データの分析,について取り組む,としていたが,コロナウイルス による影響により2年目以降の研究計画は大幅な見直しを余儀なくされている.借用可能な屋内プールおよび実験装置等を展開できる施設が見つかり,且つ実験の推進できる社会的環境も整った時点で手を尽くして予定の実験を遂行するつもりであるが,本稿を提出する時点では計画通りのスケジュールでは進められないことは間違いない.したがってプールにおける実験は社会的な環境の準備を待つことにするが,それ以外に進められる研究内容については着手する.具体的には科研費の採択前までに行ってきた水中音の録音データにおいて収録されている泳者が発する音について,その周波数特性の解析などを進める.また倉本らに代表される先行研究によって行われてきた研究方法論の精査を行い,プール実験に着手できる状態になった場合に,即対応できる体制を築きたいと考えている.それでもなお,年度内においてプール実験が不可能であろう,との結論が出た場合には研究計画2年目に実施する予定であった研究実験は全て3年目に延期したいと考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画初年度には,狭小静水水槽における予備的実験を2度行い,計測環境の構築を行い,概ねこれは順調に進められたと言える.その後,年度内授業の終了に伴って計画していた被験者を複数名用意しての本格的な実験は,令和二年に入ってから急速に拡大したコロナウィルスの影響のため,閉所環境である狭小プールを用いる実験は安全上時回避すべきであると判断したため,初年度に行うべき実験のうち複数被験者によるものは実施ができなかった.したがって,この部分を翌年度にもちこしたため,施設借用料,旅費,実験補助者に対する謝金,等の支出が余剰となった. また,当初購入予定であった小型水中マイクロフォンについては,耳朶近辺に密着させての計測をする必要があり,そのため静水中の安静時計測だけでなく,水泳中にも安定して固定できる方法がまず必要であったことから,実験においてその試行錯誤を行ったのち,購入する計画であった.しかしながら上記の理由により実験回数自体を確保できなかったことから,この治具製作の検証を含めて次年度に持ち越しすることとした. 上記の事由によって持ち越した予算については,令和二年度のコロナウィルスの影響が回避できると判断した時点で再開するために支出する.
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