研究課題/領域番号 |
19K04275
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
盆子原 康博 宮崎大学, 工学部, 准教授 (10294886)
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研究分担者 |
近藤 孝広 九州大学, 工学研究院, 教授 (80136522) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自励振動 / 乾性摩擦 / 振動制御 / 動吸振器 / 安定判別 / 接触回転系 / 手腕振動障害 / 日振動ばく露量 |
研究実績の概要 |
本研究では,摩擦に起因する振動が発生する電動工具を対象として,工具に生じる振動の発生メカニズムの解明を行うとともに,新しい手腕振動低減化技術を開発することを目的とする.まず,昨年度の研究成果に基づいてグラインダーに対する実用的な防振ハンドルの開発を行った.これは,グラインダーに生じる振動の主要因である摩擦自励振動に対する動吸振器を工具に取り付けるハンドルに内蔵したものである.開発した防振ハンドルの有効性を検証するため,被験者がグラインダーを把持して金属を研磨する際に生じる手腕振動を測定する実験を行った.その結果,通常のハンドル装着時には非常に大きな振動が生じていたが,防振ハンドルを装着した場合には自励振動の発生を完全に防止することができ,日振動ばく露量を対策値以下にまで低減することに成功した.そこで,更なる振動の低減化を図るために,もう一つの振動の発生要因であるディスクの不釣り合いによる振れ回り振動に対する動吸振器を同時に設置することを試みた.しかしながら,ディスクの回転数が系の固有振動数からはかなり離れている上,空転時と接触時とでは回転数が異なるため,強制振動系の動吸振器によって不釣り合い振動を完全に低減することはできなかった. 次に,サンダーに関する研究として,工具の把持部に発生する振動の発生原因について実験的に調べた.本検討では,片手持ちタイプと両手持ちタイプの2種類の工具で実験を行った.その結果,工具の使用状況で2種類の工具に発生する振動に大きな違いが生じた.例えば,片手持ちタイプでは,工具を押し付ける力が大きいほど手腕振動が大きくなったが,両手持ちタイプでは反対に押し付ける力が多くなると振動が減少する傾向が見られた.主な振動の原因は,ヤスリ板の回転運動に伴う不釣り合い振動であるが,接触時に振動が増加する傾向があったことから,摩擦自励振動の影響もあると考える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,グラインダーとサンダーを対象として新しい手腕振動低減化技術を開発することを目的である.このうち,グラインダーに対しては,日振動ばく露量に最も影響が大きい乾性摩擦による自励振動に向けた防振ハンドルを開発し,日振動ばく露量の大幅な低減化を実現することができた.この防振ハンドルは,ディスクの種類を変更しても同一の設定条件で自励振動の発生を防止することができる.また,形状も通常のハンドルと遜色なく,非常に実用的であるといえる.ただ,もう一つの振動の発生要因であるディスクの不釣り合いによる振れ回り振動に対する動吸振器の開発を試みたが,使用状況の変化に対応することができず十分に振動低減することができなかった.この点については今後の課題である. 次に,サンダーについても本年度から検証を開始した.まず,把持部に発生する振動の発生原因について調べるために,工具の使用状況を再現して日振動ばく露量を測定する実験を行った.本検討では,2種類の工具を用いて実験を行ったが,それぞれ全く逆の傾向が現れた.その原因が工具の仕様の差異や持ち方の違いなど,何が原因となっているかはまだ判明していない.もう少し詳しい検証を行う予定であったが,コロナ感染対策のために十分な実験が行えなかった.この点についても今後の課題である. 以上のように,サンダーに関する検討が少し不十分になったが,グラインダーに関しては十分な研究成果を得ており,本研究はおおむね当初の計画通り進展しているものと判断する.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度では,本年度までに達成できなかった研究項目を継続的に実施し,目標が達成された研究項目についてはより一層深化させて摩擦振動を伴う電動工具に対する振動抑制技術の確立に努める.具体的な実施内容は次の通りである. まず,グラインダーに関する研究では,開発した防振ハンドルの更なる性能向上を図る.とくに,摩擦自励振動だけで無く,ディスクの不つり合いに伴うふれ回り振動についても抑制するために,2種類の動吸振器を搭載した防振ハンドルの開発を目指す.第3の振動原因であるモータ特性に起因した振動についても対策を検討し,グラインダーに生じる振動の完全なる抑制の実現を目指す. 次に,サンダーに関する研究では,工具使用時に生じる振動の発生原因について調べる.前年度の結果では,異なる2種類の工具を用いて検証を行った結果,まったく逆の傾向が確認されたので,これについて再実験を行い実験結果の再現性を確認する.その上で,発生する現象を適切に再現できる解析モデルを構築し,具体的な振動抑制対策について検討する.基本的には,動吸振器を利用して振動抑制を図ることを考えているが,先行研究で開発した同期振動発生機構を利用した新しいサンダーの機構についても検討を試みる予定である. 以上の2種類の工具に対する検討を通して,手腕振動低減技術の開発を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の所要額に対して少額の残金が生じたが,この残金は次年度において同様の目的で使用する予定である.本研究課題では,研究の進展に準じて実験装置の改良や新規に製作を行うことが必要となる.このため次年度では,必要な鋼材や電子部品等を購入するための物品費を申請している.なお,実験装置の大部分は当該大学保有の工作室で自作する予定であるが,自作が困難な場合には,部品の加工を外注することも検討する予定である.これに加えて,本研究に関わる数値計算を行うための専用のパソコンを購入するための物品費を申請している.また,研究代表者および研究分担者が本研究課題に関して学会等で研究成果発表を行うために,旅費を申請している.
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