研究課題/領域番号 |
19K04277
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研究機関 | 青山学院大学 |
研究代表者 |
菅原 佳城 青山学院大学, 理工学部, 准教授 (10422320)
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研究分担者 |
武田 真和 青山学院大学, 理工学部, 助教 (40845640)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ノンスムース / 摩擦 / 衝突 / 接触 / マルチボディダイナミクス / 線形相補性 |
研究実績の概要 |
本研究では極限環境である核融合炉内で使用される機械のための回転計測システムの構築を目的としており,その計測原理の提案とそのシステムに固有の挙動に対する解析手法の提案を目的としている.本研究で対象とするシステムは圧電素子を貼付けた柔軟梁に回転軸と結合した偏心カムを接触させ,回転量に応じた梁の変形により発生する圧電素子の電圧を読み取る構造であり,その挙動は柔軟変形と摩擦や衝突を伴う接触が発生する挙動となるが,そのようなシステムに対する解析手法は十分に確立されていない.2020年度に提案した方法では非線形有限要素法をベースにした方法であり多様な接触状態を表現できるものの,最適化設計等を目的とした繰り返し計算を実施する場合には計算コストの低減が課題であった. 一方,接触点に着目すると,本システムでは接線方向に接触点が移動しないと仮定することで大局的な挙動の把握が可能である.このとき,柔軟構造がある接触点において離脱や衝突が発生すると考え,接触における接触力と接触点の相対距離の相補性関係を用いることで,接触挙動について計算コストの低いモデルの構築が可能となる.さらに,接触する物体に対して弾性のみならず塑性変形まで拡張した変形特性を導入することで,変形に対する相補性関係を導き出すことが可能となり,接触と変形を統一的に扱うことができる効率的な計算が可能な定式化方法を提案した. 衝突をはじめとする接触とともに弾性・塑性変形が発生する現象は様々なシステムに発生することから,提案手法は今回のシステムのみならず広く様々な対象に拡張できる可能性がある.そこで,この度のシステムの特性を表す本質的なモデルに対して数値解析によりその有効性を示した.また,本提案手法では塑性変形も扱うことができることから,そのような挙動も含む過去の異なる対象の実験結果との比較を行うことでも提案手法の有効性を示すことができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
計算効率の改善のために,2021年度の検討では接触点が移動しないという前提を導入することで定式化手法を提案した.一方,より正確な表現のためには接触点の移動や接触点に加わる接触面の接線方向の摩擦力の表現を導入することが必要となる.このとき,摩擦現象についても提案手法で着目している線形相補性問題に帰着することが可能である. また,提案手法においては接触や衝突で発生する力による効果は力積として与えられる.各時間ステップにおいて力積が計算され,その結果として力がステップ時間に依存して決定するため,ステップ時間の設定には予備解析を用いて評価する必要があるなど,経験則的なプロセスも必要となることが解析により明らかとなった.特に本研究で対象とするようなシステムでは柔軟構造を有しており,衝突や接触の発生する時間スケールに対して非常に遅い振動現象が発生する.このようなシステムでは運動において複数の時間スケールが発生することになり,前述のような経験則によって時間ステップを決定することは容易ではない.そのため,時間ステップへの依存性が少ない方法を導入することが改善点の一つであるという結論に至った. 上記のように解析手法については改善点があるものの,摩擦の効果を表す定式化を導入したとしても基本的には計算効率の良い手法が提案できるため,最終的に実施をしたい設計パラメータの最適化のための繰り返し計算へと適用可能であり,最適化プロセスへの課題は少ないと考えられ,新規の対策や提案は不要と判断した. 以上より,提案手法の骨格はできているものの,摩擦の影響を考慮できる方法への拡張やステップ時間への依存性の改善などの課題が残っており,計画よりもやや遅れていると判断する. また,提案手法の応用として極めて柔軟な構造に対する定式化手法への拡張を行うことができ,本提案手法の汎用的な展開についても行った.
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今後の研究の推進方策 |
摩擦をはじめする接触現象については,ユニラテラルコンタクトと呼ばれるPffeifer らによって提案された方法(Multibody Dynamics with Unilateral Contacts)により表現できることから,提案手法への導入を行う.一方,Pffeiferらの方法では前述のようなステップ時間への依存性が引き続き課題となることが考えられる.摩擦の効果はノンスムースダイナミクスと呼ばれる分野に含まれ,ノンスムースダイナミクスに基づく手法については,提案手法とは異なる方法である測度微分方程式に基づく方法が近年提案されている.これは,衝撃や摩擦などの瞬間的に変化する現象に伴う力の影響を,ステップ時間内における平均力積として扱うものであり,時間ステップへの依存性を低減させることができる可能性があり,接触や衝突時の瞬間的な力積を扱ったPffeiferらの方法とは異なる定式化となる.そこで,本提案手法の一部を拡張することで提案手法の改良を試みる.一方,準備的な検討により測度微分方程式を導入することで,現在の提案手法における塑性変形の取り扱いが注意を要することが分かっており,その点についての基礎モデルを導入した上で検討を行う.また,提案手法については数値解析および既存の実験結果をもとに有効性を評価する. 現在の提案手法に摩擦を導入した方法もしくは測度微分方程式に基づく方法の構築が完了後には,対象とするシステムに対し提案手法を用いた最適化を行い,解析によって提案手法の有効性を評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
残額が9円であったことから該当年度内に必要となるものはなかったため次年度使用額が発生した.次年度使用額が9円増額となるが,使用計画に影響を及ぼす額ではないことから,予定通りの計画で使用する予定である.
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