研究課題/領域番号 |
19K04278
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研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
長澤 純人 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (30400279)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | コンプライアント・メカニズム / 折り紙構造 / MEMS / 形状記憶合金アクチュエータ / マイクロ・ロボット |
研究実績の概要 |
本研究は以下の3つの研究項目を柱として,効率的に研究を実施している.本年度の成果が論文として掲載された(Japanese Journal of Applied Physics, Vol.59 (SI), DOI: 10.35848/1347-4065/ab7439). 【1】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムのプロセス確立:折り紙構造によるコンプライアント・メカニズムの構成方法を確立した.定量的なコンプライアント・メカニズムの評価実施のため,製造プロセスは安定した弾性特性を持つポリプロピレンシートを利用し,1枚の平面展開図から,複雑な可動構造を持つコンプライアント・ヒンジを試作・評価した(日本機械学会検ロボティクス・メカトロニクス講演会2019で発表)さらに,MEMSプロセスによる小型6足歩行ロボットの全体フレームを,折り紙構造によるコンプライアント・メカニズムで設計・試作することに成功した(Int. Microprocesses and Nanotechnology Conf. 2019で発表). 【2】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムの機械的特性の評価:2次元コンプライアント・ヒンジの詳細な画像解析から,曲げられた角度によってヒンジの回転中心が遷移することがわかった.リンク機構を設計するため,この中心遷移特性を数理モデル化した.リンク機構の基本となる4節リンク機構に関して,本モデルの有効性を確認している. 【3】MEMSセンサやアクチュエータとの親和性の検証:コンプライアント・メカニズムの駆動手法としてSMA(形状記憶合金ワイヤー)を導入した.応答特性・消費電力特性に関して試作・検討した(日本機械学会検ロボティクス・メカトロニクス講演会2019で発表,上記発表とは別発表).PWM加熱条件などを工夫し,消費電力を抑えながらも2秒以内の応答を実現している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
【1】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムのプロセス確立:シリコン,SU-8,フォトニースなどのMEMSプロセス条件の検討は2020年度に変更し,折り紙構造を用いたコンプライアント・メカニズムの設計手法の確立を優先した.これは折り紙構造によるコンプライアント・メカニズムの設計手法が確立した後の方が,MEMSプロセスの定量的評価がやりやすいと判断したためである.フレシキブル基板(ポリイミド/銅薄膜/SU-8)によるコンプライアント・メカニズムの試作・評価は2019年に実施できたので,研究計画と比較して進んでいると考えている. 【2】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムの機械的特性の評価:コンプライアント・ヒンジは構造材の弾性特性とアクチュエータの駆動特性のバランスで機械的特性が決定される.上記のフレキシブル基板を用いたプロセスで,構造体の持つ弾性特性(SMAを引き伸ばしつつヒンジを伸ばす)とSMAアクチュエータの駆動特性(構造の弾性に打ち勝ってヒンジを曲げる)のバランスを定量的に評価した.また,6脚マイクロ・ロボットの全体フレームの設計では,脚機構における自重を支えるアクチュエータの負担を軽減するために,ヒンジの弾性を積極的に利用する構造なども検討した.概ね計画どおりの進捗である. 【3】MEMSセンサやアクチュエータとの親和性の検証:SMAはファイバー型とコイル型の特性を温度・変位・荷重・電気抵抗の4システム変数で測定し,それぞれの非線形特性を把握した.応答特性の改善のため,PWM過熱方式の条件を工夫したり,コンプライアント・ヒンジに可動ヒートシンクを組み込んだりなどの検討を進めた.また,駆動領域に関しては運動学的解析による設計に近い値まで駆動できているが,SMAの高精度な固定方法が必要という新しい課題が出てきている.概ね研究計画どおりの進捗である.
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今後の研究の推進方策 |
【1】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムのプロセス確立:フレキシブル基板を用いたコンプライアント・メカニズムのプロセスが確立できたことによって,研究計画よりも早めに6足歩行マイクロ・ロボットの試作が実施できる.計画が早く実施できる分,アクチュエータやセンサ,制御系回路の統合を2020年度から実施できるものと考えている.また,当初の予定であった,フォトニース/銅めっき/SU-8またはシリコンのMEMSプロセスであれば,より小型のマイクロ・ロボットが製作できるため,そのプロセス検討も進める. 【2】MEMS3次元コンプライアント・メカニズムの機械的特性の評価:コンプライアント・ヒンジ部分の機械的特性,材料の弾性特性とアクチュエータの駆動特性は現状では2次元のみであるため,複数のヒンジを持つ3次元的に駆動する構造体の検討を進める.また,基本的には平面的にしか構造を作成できないMEMSプロセスに適用するために折り紙構造を採用しているが,ソリッドな性質が求められる構造部と,柔軟な性質が求められるヒンジ部を,MEMS折り紙構造でどのように製作するかの工夫を進める. 【3】MEMSセンサやアクチュエータとの親和性の検証:アクチュエータの導入は計画どおり進んでいるので,2020年度は当初の計画どおりセンサの導入を実施する.SMAは電気抵抗を測定することで自己センシングが可能であるが,強い非線形特性のため推定制度は高くない.このため,関節の角度フィードバック制御で必要になるヒンジの角度推定などでは,角度の直接測定が可能なセンサを導入することが望ましい.導入が容易な抵抗型の薄膜角度センサの導入を進めつつ,2020年は研究トピックとして折り紙構造に適した積層型静電センサの導入を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度の予算実施はほぼ計画どおりに実施できている.次年度使用額は3万円強であり,予算の残金としては適正な範囲内と考える. この次年度使用額は,プロセス消耗品などに利用予定である.
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