研究課題/領域番号 |
19K04279
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
堀内 伸一郎 日本大学, 理工学部, 教授 (30181522)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 機械力学・制御 / 制御系検証 |
研究実績の概要 |
本研究では,コントローラによる入力と外乱・パラメタ変動を利益の相反する2人のプレイヤと見なし,微分ゲーム理論を応用してシステムを最悪状態に陥れる最悪外乱と最悪パラメタ,およびこれに対する最良入力を求め,最悪状態における最良制御を加えた時の応答から制御系の性能検証を行う新たな手法の開発を目指している.特に,システムが複雑で非線形の場合,微分ゲーム問題の解を解析的に求めることはほとんど不可能であることから,数値最適化手法を適用してゲーム問題の数値解を求める手法がポイントである. 令和元年度は簡単なシステムを例にとり,微分ゲーム問題として定式化した制御系の検証問題を遺伝アルゴリズム(GA)の適用によって解ける見通しがついたので,令和2年度は実際的な高自由度非線形車両モデルにこの方法を応用し,解法の有効性を検討した.まず,制御系を搭載しない車両を対象とし,車両を安定化しようとするドライバの舵角入力と,不安定化させようとする外乱およびパラメタ変動を2人のプレイヤとして微分ゲーム問題を定式化し,遺伝アルゴリズムによってそれぞれの最適戦略を求めた.令和元年度の予備的検討から,GAの遺伝的操作の方法やそのパラメタが微分ゲーム問題の解に大きな影響を及ぼすことが判明していたので,これらを変化させて可解性と解の精度を検討した. その結果,評価関数の重み,GAのパラメタの取り方によっては解が得られない場合があることがわかった.微分ゲーム問題は必ずしも解が存在するとは限らないことから,この結果が数値計算上の問題なのか,あるいはゲーム問題としての解が存在しない条件に相当するのかの判別に多くの時間を費やす結果となった.複雑な問題では解の存在を理論的に明らかにすることは困難であることから,現段階ではGAのパラメタを変更しても解が得られない場合はゲーム問題の解が存在しないと見なす方向で検討している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
上記「研究実績の概要」でも述べたように,微分ゲーム問題の数値解法において解が得られない場合があることが経験された.この問題が採用した数値計算手法に起因するものなのか,そもそも解が存在しないような問題設定になっているのかを判別するために多くの時間を必要とした.複雑な微分ゲーム問題では理論的に解の存在を証明することは極めて困難であることから,まず数値解法のパラメタ(GAの個体数,交叉率,交叉方法(交叉点の数と位置),突然変異率,選択方法などのパラメタ)をさまざまに変化させて解の探索を行った.よく知られているように,GAは多峰性や不連続性をもつ評価関数の最適化に有効であるが,その反面,計算の負荷が高く計算時間が長くなる,パラメータの選定に困難が伴うといった問題を持つ.このような長い計算時間とパラメタの試行錯誤的な変更により,解の存在を確認するのに長い時間を要した. 解の理論的な存在確認については,評価関数を2次形式とした線形システムに対する微分ゲーム問題の解がRiccati方程式を解くことにより解析的に求められることから,非線形システムに対する微分ゲーム問題を線形近似し,近似線形微分ゲーム問題の解の存在を確認することにより行う方法を検討した.しかし,現在までのところ,その理論的な妥当性を証明する段階にまでは至っていない. また,令和2年度はコロナウィルスの蔓延により大学の授業がすべてオンラインで実施されたため,オンライン授業の準備に多大な時間を必要としたことから研究に充てることのできる時間が減少した.また,在宅勤務が多くなったことにより,不十分な数値計算環境で研究を進めなければならなかった.以上のような理由により,当初の予定より進捗状況が遅れる結果になった.
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定では令和2年度までに計算手法を確立し,令和3年度は実際的な車両運動制御系の制御則の検証を行う予定であった.しかし,上記「現在までの進捗状況」で述べたように,進捗が遅れていることから,令和3年度はまず早急に非線形微分ゲームの数値解法を確立する.前述のようにGAは数値計算のパラメタ設定が困難であることから,近年研究が進んでいる遺伝パラメタの設定を必要としないパラメタフリー遺伝アルゴリズム(PfGA)を適用して微分ゲーム問題の解法を試みる.PfGAを用いることにより,遺伝パラメタの試行錯誤的な調整が不要となるため,研究の進展が期待できる. その後,ドライバが前輪を,制御系が後輪を操舵する4輪操舵車を想定し,外乱としてドライバの前輪操舵・制動入力,車両パラメタとしてタイヤ特性を表すパラメタ,制御入力は後輪舵角とする微分ゲーム問題を解く.本年度との違いは制御系を搭載した車両を対象とする点で,最も低い車両性能を与えるタイヤを装着した車両に対して,ドライバが最も車両を不安定に陥れるような最悪操作をした場合,後輪操舵制御系がどれだけ安定性を維持できるかを調べることによって,制御系の検証を行う.もし,このような最悪状態でも車両を安定に保つことができれば,それ以外のあらゆるドライバの操舵やタイヤ特性の変動に対しても,理論的に安定性が保証できることになる.後輪操舵制御系としては各種の後輪操舵アルゴリズム(前輪舵角比例後輪操舵,横すべり角ゼロ化後輪操舵,ヨーレイトモデル追従後輪操舵など)を用い,それらの有効性を調査する.これによって制御系の性能を,その制御系に対する最悪条件という同一の基準で比較検討できることになる.
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウイルスの全世界的な感染拡大により,学会(国内・国外とも)等が全てオンラインになったため,旅費を全く使用しなかった.また,在宅勤務が多くなったため,当初予定していた備品・用品等の購入を延期した.以上のような理由で次年度使用額が発生した. 次年度は車両運動シミュレーション用ソフトウェアおよび当該ソフトを稼働させるための高性能PCを購入し,上記「今後の研究の推進方策」で述べたように各種シャシ制御の性能を検証する.また,ヨーロッパ,特にイギリスではコロナウイルスの感染が収束に向かっていることから,ヨーロッパの学会への参加も視野に入れている.
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