研究課題/領域番号 |
19K04284
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研究機関 | 福岡工業大学 |
研究代表者 |
鞆田 顕章 福岡工業大学, 工学部, 助教 (20582414)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 振動解析 / 古典分子動力学法 / 第一原理計算 / 原子間ポテンシャル / 内部摩擦 / マルチスケール解析 |
研究実績の概要 |
機械システムの開発・設計では,振動特性の異なる金属材料を用いた部品を多数使用することがあり,振動入力時において系の応答が著しく増大する可能性を有する.このような系の振動特性の推定には,FEM(有限要素法)が用いられることが多いが,金属材料の内部摩擦に起因する振動減衰能の再現が困難であり,CAEによる最適設計の障壁となっている.そこで本研究では,材料内部の転位や双晶といった内部摩擦を高精度にモデリングすることが可能なMD(分子動力学法)とFEMを組み合わせた統合振動シミュレータの開発に挑む.ただし,MDによる数値解析では時間スケールの問題により,振動問題に対して過去の研究成果をそのまま適用することは不可能である.本研究では,金属材料の内部摩擦を精度良く再現すること,かつ,解析対象の要素数を抑えることを目標とし,時間スケールの克服を目指す. 本研究では,3つの課題(課題1:金属材料の結晶構造の構築,課題2:金属材料の振動減衰能の推定,課題3:統合振動シミュレータの開発)を設定している.本研究の推進により,金属材料の内部構造に基づく新たな振動解析法を確立することが可能となり,CAEによる複雑な機械システムの最適設計の高度化が期待できる. 2020年度については,課題1,2を遂行した.課題1については,M2052合金のMDモデル構築およびGEAMポテンシャルの生成を行った.解析対象系の構造緩和後の原子配置および系の上面にせん断変形を与えた場合の双晶領域の変化をMD解析により求めた.また,FE-SEM,EDS(エネルギー分散型X線分析),EBSD(電子後方散乱回折)を用いてM2052合金製薄板の結晶構造,元素分布の同定を試みた.課題2については,金属材料の内部摩擦による系の振動減衰能への寄与度を調べるための大規模MDモデルの検討を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
双晶型高減衰材料の内部摩擦をMDモデルにより表現するため,GEAM(Generalized Embedded Atom Method)ポテンシャルを用いてM2052合金の原子間ポテンシャルの生成を行った.32000個の原子をMn 73%,Cu 20%,Ni 5%,Fe 2%の割合となるように系内にランダムかつ平衡原子間距離を考慮して等間隔に配置させ,大規模古典MDシミュレーション用ソフトウェアであるLAMMPSを用いて各原子の最安定位置を求めた.その結果,系内に多数の微細双晶が発生することが確認できた.系内の原子の初期配置はほぼ等間隔になるようにしたが,最安定位置の導出および構造緩和計算によって,一部の領域の原子間の距離が変化することがわかった.ここで,M2052合金は熱弾性型マルテンサイト変態およびMn原子が持つ磁気モーメントが原子面毎に反転して並ぶという反強磁性により,c軸方向の歪が発生し,常温でFCT(面心正方構造)となることがわかっている.本研究で構築したM2052合金のMDモデルおよび原子間ポテンシャルは,上述の結晶構造の特性を表現できている可能性が高いことがわかった. また,大規模MD解析に向け,スーパーコンピュータ(九州大学)を用いた場合の系の原子数の上限について調査し,4ノード程度の小規模並列計算においても1千万から2千万原子のMD解析を行うことが可能であることが確認できた. 以上の内容は,当初の研究計画に沿った取組により得られた結果であり,次年度以降も概ね計画通り研究を進めることができると判断したことから,おおむね順調に進展していると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
2021年度については,M2052合金の結晶構造を高精度に表現するための原子間ポテンシャル(EAMポテンシャル)の生成について検討を行う予定である.原子間ポテンシャルの生成には,Mn,Cu,Ni,Fe単元素,2~4元系合金の結晶構造,格子定数等を第一原理計算により高精度に求めておく必要がある.本研究では,第一原理計算用ソフトウェアであるQuantum ESPRESSOを新たに導入し,九州大学および名古屋大学のスーパーコンピュータで計算できるよう,コンパイル等の事前準備を進めている.また,課題2の大規模MD解析の準備を進め,M2052合金の振動減衰能の推定を試みる予定である.M2052合金の大規模MDモデルの内部に双晶が複数存在するか確認し,系に振動入力を与えた際に双晶およびその近傍の原子の状態がどのように変化するか観察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
数値計算用プログラム作成および試し計算用ワークステーションの組立を予定していたが,組立に必要なCPUの欠品が長期にわたり続いた.そこで,小規模計算用PC(Intel Core i7-9700K,4.90GHz 8コア,HDD 6TB,NVIDIA Geforce RTX3070搭載)を研究代表者の所属する大学の予算で購入し,九州大学および名古屋大学のスーパーコンピュータへの接続,MD解析用入力ファイルおよび結晶構造ファイルの生成,バッチジョブの実行,MD解析結果の可視化を行った.今後も継続して試し計算用ワークステーション用CPUの販売状況の確認を行い,購入を行う予定であるが,半導体製品の世界的な供給不足によりさらに構築の遅れが生じる可能性がある.現時点では,スーパーコンピュータ利用による大規模MD解析に大きな遅れは生じていないことから,CPUの販売状況や代替品の性能等の確認を行いながらワークステーション構築の計画を再検討する.
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