機械システムの開発・設計では,振動特性の異なる金属材料を用いた部品を多数使用することがあり,振動入力時において系の応答が著しく増大する可能性を有する.このような系の振動特性の推定には,FEM(有限要素法)が用いられることが多いが,金属材料の内部摩擦に起因する振動減衰能の再現が困難であり,CAEによる最適設計の障壁となっている.そこで本研究では,材料内部の転位や双晶といった内部摩擦を高精度にモデリングすることが可能なMD(分子動力学)法とFEMを組み合わせた統合振動シミュレータの開発に挑む.ただし,MD法による数値解析では時間スケールの問題により,振動問題に対して過去の研究成果をそのまま適用することは不可能である.本研究では,金属材料の内部摩擦を精度良く再現すること,かつ,解析対象の要素数を抑えることを目標とし,時間スケールの克服を目指す. 本研究では,3つの課題(課題1:金属材料の結晶構造の構築,課題2:金属材料の振動減衰能の推定,課題3:統合振動シミュレータの開発)を設定した. 2023年度については,主に課題1におけるM2052合金(Mn:73%,Cu:20%,Ni:5%,Fe:2%)の原子間ポテンシャルの高精度化を目指し, 第一原理計算(Quantum ESPRESSO)により得られた10944個の計算結果を教師データとし,深層学習の訓練ステップ数を1000000としてニューラルネットワーク原子間ポテンシャル(NNP)を構築した.構築したNNPは,1原子当たりのエネルギーおよび力の二乗平均平方根誤差が,それぞれ3.45×10^-3 eV,3.51×10^-3 eV/Åであり,いずれも目標値を満たしていることが分かった.構築したNNPを用いてMD法による引張試験シミュレーションを実施し,M2052合金の縦弾性係数の温度依存性が実験値と同様の傾向を示していることを確認した.
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