研究課題/領域番号 |
19K04288
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
中林 正隆 宇都宮大学, 工学部, 助教 (50638799)
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研究分担者 |
嶋脇 聡 宇都宮大学, 工学部, 教授 (10344904)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バイオミメティクス / バイオメカニクス / ソフトロボット / SMA / 人工筋肉 / 流体内推進機構 |
研究実績の概要 |
本研究課題はリニアソフトアクチュエータを格子状に配置した構造を用いることで,高自由度の変形性能を実現,任意の遊泳形態で遊泳する流体内推進機構を開発することを目的としている.今年度の実施内容を次に示す. 1.変形機構の駆動を実現するための釣糸人工筋の製作:研究開始から導入する予定であったSMAリニアソフトアクチュエータでは十分な機能を得ることが出来なかっため,これを実装することは困難であった.この問題に際し,SMA人工筋の調整と合わせて,今年度はナイロンを主材料とした釣糸人工筋を製作することを試みた.釣糸人工筋は製作例が多く存在し,釣糸を撚ることで製作される.先行研究の製造装置の設計思想の元,マイコン制御によるステッピングモータ4台を用いた撚線機を改良し,安定した釣糸人工筋の製造装置の開発を試みた.制御系に関しては安定化することが出来たが,コロナ禍によって部品の納期が大幅に遅延したため,本装置を用いての人工筋肉の製造は行われていない.しかし,試験的に作成した釣糸人工筋は一定の収縮性能と応答性を有しており,今後の製造装置によるより高性能な人工筋開発が望まれる. 2.屈曲方向変換機構による変形方向変換構造の提案と試作:昨年度の研究により,先行研究で開発された全弾性変形機構を規範とした変形機構は,全体的に剛性が高く,リニアソフトアクチュエータの配置が疎であったために機構全体の変形が微少となってしまった.この問題に際し,これまでに使用してきたステンレスケーブルを細径化,ポリビニルシートからより柔軟な天然ゴムシートに材質を変更した.これと合わせて,これまでの格子配列から更に変形方向を明確化するため,リニアソフトアクチュエータの配置を十字型格子配列とし,収縮と膨張,屈曲方向変換を実現することを試みた.変形方向を変換する機能は観測されたが,変形の安定性の観点から今後の機能的発展は厳しいと考えられた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
実績報告にも記載したが,当初使用を計画していたリニアソフトアクチュエータは改良を加えても所望の性能を発揮しなかったため,その代替となるアクチュエータを実績のある技術から製造する必要があった.代替アクチュエータとして開発された弾性伸縮機構は,機能としては十分な性能を有するが,その重量の問題から内部実装は困難といった問題があった.こうした点からSMAを調整しつつ,実績のある釣糸人工筋の製造装置を開発し,機能的に安定した収縮性能を有するリニアソフトアクチュエータの製作を試みている.現状,釣糸人工筋の製造は試作段階であるが十分な収縮性能が見込まれており,今後の製作過程において必要十分な機能が得られる可能性が高い. 前年度の研究において開発された変形機構は骨格構造が疎であり,被膜するシートが高剛性であるが故に,変形の伝搬が困難であったことが明らかになった.この問題に際し,構造の柔軟性とアクチュエータの配置について再検討がなされ,十字型格子配列構造が提案され,試作・動作解析による評価がなされたが,安定した変形能力を有することは困難であった. これらのことから性能的に問題となっていたリニアソフトアクチュエータの技術的問題は着実に解決に近づいてきているが,推進機構本体の安定した変形性能の実現には至っておらず,引き続き高度な変形性能を有するように機構の改良と評価が必要である.
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今後の研究の推進方策 |
高度な変形性能を実現するためのリニアソフトアクチュエータとして,ナイロンを主原料とする釣糸人工筋の製造装置を完成させ,安定した収縮と応答性を持つ人工筋肉の製造量産を実現する. 現段階においては,駆動制御系の安定化と機構の改良などが実現しており,組立てと製造試験を残すのみだが,コロナ禍による半導体不足・戦禍・急激なインフレなどの問題により構成部品の納期の問題に見舞われている.これらの問題に際しては,代替部品等を選定することで逐次補っていく方針で進める予定である. アクチュエータの配置の問題については,これまでの鋭角的な格子配列から直角の十字型格子配列を提案し,変形性能を評価してきたが十分な性能を実現することは困難であった.そこで,本研究課題の原点であるユーグレナの基本構造に立ち返ることを着想した.ユーグレナは表皮帯と呼ばれる弾性繊維帯の複合構造を持ち,変形時にその表皮帯同士の滑走が観測されてきたが,未だ,その動力源は明らかになっていない.一つの学説では,この表皮帯の滑走自体が原動力だとの見解もあるが,これを応用して機構を構築することは困難である.そのため,もう一つの学説である収縮機構が内部組織に存在するという説から疑似二次元的な変形機構を提案したが,この構造で三次元的な変形を実現するのは困難を極めた.このことから収縮機構の所在は現状の格子配列ではなく,表皮帯自体に対をなして存在し,その滑走時には表皮帯自体が屈曲動作を行うのではないかという仮説を立てた.この仮説の元に変形性能について幾何学計算と予備実験を元に評価検討が行われ,10%程度の低収縮率でも機構全体の大変形を実現する可能性が示唆されている.実際の実験機としての完成が急がれる.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 昨年度と同様に,コロナ禍にあったことから納期の遅延や在宅勤務,シフト制の導入などがあり実質的に研究に従事できる日数には限度があり,フルタイムで問題解決に向けた行動が抑制されている状態にあった.このため研究計画や実施状況に乱れが生じ,今後の方針の決定に時間を要することになった.こうした点から精緻に研究計画を実施するため予算を温存することとした. (使用計画) リニアソフトアクチュエータとして釣糸人工筋の製造を進めているため,その製造部品やその原材料,新たに構築する変形機構の骨格構造を開発するための弾性素材や駆動系などの部材に利用していく予定である.
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