研究課題/領域番号 |
19K04310
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
洞出 光洋 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), システム工学群, 講師 (30583116)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロマシン / マイクロロボット / 微小力センサ / 細胞操作 / 画像解析 / MEMS |
研究実績の概要 |
小型ロボットハンドの一種であるマイクロマニピュレータ先端のエンドエフェクタに,力計測可能なひずみゲージを搭載させることで,マイクロマニピュレータで行う一般的な把持操作工程だけでなく,把持時の情報を取得するアプローチを実施する. 令和元年度においては,力計測可能なひずみゲージを搭載したエンドエフェクタをマイクロマニピュレータに実装し,さらに微小力を計測することを目的に,ひずみゲージ付きエンドエフェクタの製作・評価,顕微鏡の画像解析システム,ひずみゲージアンプシステムの検討および構築,研究実施に必要な環境の整備を行った.特にセンサ素子となるひずみゲージそのもののサイズを100μm角以内のサイズに収める必要があり,あらかじめエンドエフェクタに集積させた状態で製作しなければならず,加工法に関しても難易度の高い技術が要求された.また計測対象となる微小対象物に関しても,直径200μmオーダの組織での計測試験に成功した.本手法の実証を提示することができた. さらに現在計測対象として実施したい細胞や組織の挙動観察試験に関しても,合わせて実施した.今回新たに計測対象として,モデル植物であるシロイヌナズナの根に対して実施し,根の単離方法についても進めた.既に伸長方向を平面に制御する方法について最適条件の導出に成功した.さらに動物細胞についても進めており,筋肉系の細胞に対して刺激負荷とその反応について因果関係を調査する試験を実施した.現段階で培養開始後180分経過した細胞に対して負荷を約20分かけると,負荷をかけなかった細胞に比べて,細胞内のストレスファイバが大きく成長していることが確認できた. 今後は装置の開発,細胞挙動の確認,この2つの成果を融合することで,細胞の局所刺激とその反応についてどのような現象が起こるのか,刺激の有無による違いを観察評価していく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題ではマイクロマニピュレータのエンドエフェクタに力センサを搭載したデバイスを用いるという,これまでにないデバイスをツールとして使うアプローチが特徴である.このような取り組みは実施例がなく,試験実施のための装置構築の段階においても想定外の問題が多く発生した.しかし,再度デバイスの再設計と製作・評価,ならびにひずみゲージアンプについても市販のものでなく,自ら構成を考え設計する等のマイクロマニピュレーションに特化した装置の仕様に変更できたため,計画以上に進展したと評価した.また,ひずみゲージの問題等,マイクロマニピュレーションならではの問題点や実際に発生した事例等,多くの新しい知見が見いだせたことが非常に大きな成果と考えている. また上記の装置構築と並行して,細胞の挙動についても,自身の培ったマイクロマシーニングならびにロボティクス技術を駆使して解析を行った.具体的な方法として,細胞挙動を評価可能とするためのシステムから検討し,画像解析につ必要なアルゴリズム構築を中心に,対象となる細胞等生物に対する知見も工学的視点から合わせて得ることができた.特にこれまで実施例の乏しい工学と植物の分野を融合したことで,今後農薬開発にも期待できると考えている.また動物細胞に関しても,力学的負荷とその反応について,工学ならではの計測評価方法の確立を実施できた.特に植物の根を対象にした評価試験方法は,これまでほとんど行われていなかったため,かなり手探りの状態からのスタートであったが,年度後半で伸長方向の制御に期待が持てる成果が得られた.細胞の挙動評価についても,独自のアプローチで計測方法から挙動に至るまで,ユニークな知見を得ることができた.
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今後の研究の推進方策 |
今回の結果から,一般的なひずみゲージを用いる手法ではなく,独自に設計製作したマイクロマニピュレータに集積したひずみゲージで微小力計測を実施できる環境構築を行うことができた.また計測対象となる細胞等の微小対象物についても,細胞操作方法や,刺激とその反応について,必要な知見を得ることができた.今後はマイクロマニピュレータでなければ計測できない局所の刺激や,力センシング,細胞・組織の硬さ評価に挑戦したい.特に細胞の硬さ評価は疾病との相関も強く示唆されたパラメータであるため,これまでにない試験方法の確立に期待できる. 細胞への負荷試験を行った場合,細胞骨格が強くなる等の結果がみられているが,実際にその過程で何が起こっているかはブラックボックスである.今回の提案した研究では,細胞の局所だけ刺激することが可能になるので,細胞の半分だけ刺激を加えることで,骨格の半分だけが強くなっているような結果がみれれば非常に面白い.そのためにも,局所刺激を実現するために,力センサを搭載したエンドエフェクタをマイクロマニピュレータに実装し,細胞の局所だけ刺激を行い,さらにその際の負荷情報を得るシステム構築をまずは実施する.システム構築に必要な個々の要素については初年度で構築できているため,本年度ではそれらを集積していく. また合わせてリアルタイム計測についても実施する予定である.特に細胞の挙動においては,経時変化を確認したいため,カメラからの画像解析や,ひずみゲージアンプからの信号変化を時系列で計測できるシステムを構築していく.一般的に用いられる細胞解析装置や技術は,最終的な結果のみを調べるものであり,細胞が歩んだ歴史をみることができない.この変化の過程をみるための装置開発およびその観察試験を実施していく.
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度においては,主に卓上型超低温槽と小型高圧蒸気滅菌器等の細胞実験で使用する装置の購入,ならびにカメラからの画像解析のためのPC購入をおこなわなかったため,当初使用額との差が生じた. 細胞試験に関しては現状備え付けられた設備で最低限行われたこと,またこれらの結果を踏まえて今後購入する装置の選定を行いたかったため,初年度での購入を見送った.ただし,次年度中に細胞試験のための設備導入を進めるため,上記の装置を含めてインキュベータ等の装置選定を現在進めている. また画像解析においても,現状のカメラとノートPCで,一定の解析結果が得られたため,購入を見送った.こちらも今後導入する予定であり,当初計画した業務遂行に影響はなかった.
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