研究課題/領域番号 |
19K04318
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研究機関 | 阿南工業高等専門学校 |
研究代表者 |
福田 耕治 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 教授 (40208955)
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研究分担者 |
三宅 修平 東京情報大学, 総合情報学部, 教授 (00200139)
杉野 隆三郎 阿南工業高等専門学校, 創造技術工学科, 教授 (10259822)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 汎用的行動決定構造 / アリのタスク選択 / 反応閾値仮説 / 固定反応閾値モデル / フェロモン表現 |
研究実績の概要 |
本研究テーマの主題は,アリの活動全般を網羅する行動モデルの構築にあることから,まず群集を形成する生物の行動について考察をした。アリに限らず,群集を形成する生物では,自己に対する他者との関係を知ることが重要となる。すなわち,アリは他者の状況をフェロモンによって知り自己の行動に反映させている。そして,その行動決定には種もしくは自己の生存可能性を高めるための戦略が存在すると考えた。この考察に基づき,個体ごとの固定的特性の存在,自身の行動および環境により影響を受ける自己の状態,そして自己の状態により選択される行動戦略に基づく実際の行動発現としてループを繰り返すという汎用的な行動決定の構造を提案した。この構造は,アリの行動モデルにも当てはめることができるが,アリのタスク選択と選択されたタスクに対して発生する行動ルールの構造をどのように階層化するかを検討する必要があるため,まずはこの行動決定構造を群集の行動モデル,および魚群の行動モデルに適用して研究を進めた。 群集行動では,左の部屋から右の部屋にスリットを通って移動するという単純なタスクを設定し,個体は人が集中した際の「譲る」度合いを固定的に有しているが,周囲の状況により実際に譲る度合いが影響を受けることを考慮したモデルを提案し,数値シミュレーションを行った。その結果,平均的なタスク完了までの時間は,群集サイズが大きくなると譲る度合いが50[%]程度が最も短くなるという結果が得られた。また,魚群行動では,基本的な領域モデルに対応する構造を実現した段階であるが,3Dシミュレーションにより魚群を形成することを確認している。なお,この成果は,The 3rd International Symposium on Swarm Behavior and Bio-Inspired Robotics 2019にて発表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
群集を形成する生物全般の行動モデルの構造について検討した。一方で,アリの活動全般を網羅する行動モデルについて検討した。その結果,アリがタスクを選択する基本的なルールについては既に「反応閾値仮説」があり,それをベースとする「固定反応閾値モデル」が提案されていることがわかった。本研究でもこのモデルに基づいたタスク選択の方法について検討した結果,アリが相互に各自のタスクとストレス情報をフェロモンによって交換しており,各個体固有の閾値によってストレスに対する反応としてタスクが選択されるというモデルが基本となるという考えに至った。そして,このモデルの具体的な実現方法としてこれまで取り組んできた,「色」によるフェロモン検出を考案した。これは,アリロボットが相互に近接した際に,カラーセンサとフルカラーLEDによりアリが分泌するフェロモン情報を相互に交換するというものである。そして,この装備を既存の小型移動ロボットに追加するため,回路の設計を行った。この回路の基本設計は終了しているが,小型ロボットとしてサイズが大きくなることを極力抑えるため,回路を円筒面に沿って配置するためのCADデザインができていない。 次に,シミュレーションと多数のロボットを用いた実験を実現するため,大型ディスプレイを活動フィールドとするシミュレーション・実験システムの構築を手掛けた。現段階では,ディスプレイを水平にして常設するスペースを確保することが困難であったため,必要に応じてフィールドとしてのディスプレイを垂直にして片づけることができる構造を持つシステムを構成した。 アリの飼育・行動記録方法としては,巣内部を垂直に展開するのではなく水平に展開して観察することとした。これにより,巣内部のアリの行動をより容易に記録できるものと考えられる。そして,マーカーによる個体識別の基本的な動作は確認できている。
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今後の研究の推進方策 |
アリの行動モデルについては,研究実績の概要で示した群集を形成する生物の汎用的行動決定構造と,アリのタスク選択および選択されたタスクごとの行動との階層的関係を含めた行動モデルとの対応を考察し,ベースとなるタスク選択とタスクによる行動発生の二元的行動決定モデルを定める。このためには,まずタスク選択の構造を生物の汎用的行動決定構造に対応させて構成する。そして,最初のタスクとしてはすでに個別に検討している採餌活動を反映した数値シミュレーションシステムを構築し,動作を確認する。さらに,別のタスクに対応する行動モデルについて考察・提案し,シミュレーションシステムに追加していくことにする。 アリの行動を再現する小型移動ロボットには,直接接触によるフェロモンコミュニケーションを実現する回路(設計はできている)を製作し,搭載させることが先決である。基本的な駆動のための機能は既に準備できているため,直接接触によるフェロモンコミュニケーション機能を利用するためのライブラリを整備し,構成した行動モデルに対応するプログラムを作成する。 アリの行動をトラッキングするためのマーカーによる個体識別は準備できているが,実際にアリの行動を記録するには至っていない。さらに,アリの飼育については具体的な活動に至っていないため,今年度実施する必要がある。 以上,シミュレーション,ロボットシステム,飼育と行動記録・解析,の3つの大きなテーマごとに研究室の学生を1人ずつ配置し,取り組むことで研究を推進することにしている。
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次年度使用額が生じた理由 |
40万円程度のコンピュータシステムは既に購入依頼しているが,今般のウィルスによる世界的な影響により生産が遅れており,現時点で納入されていない。 その他の物品としては,実験システムを構成するためのアルミフレームおよびカメラが未購入である。さらに研究の進展に対応して,アリの飼育のための装置およびアリ自体を購入する必要がある。これらを次年度分と合わせて購入する予定である。
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