研究課題/領域番号 |
19K04348
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
飴井 賢治 富山大学, 学術研究部工学系, 准教授 (50262499)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 三相 / 部分スイッチング / 整流回路 / 同期整流 / 双方向スイッチ / 力率改善 / 高調波抑制 / 高効率 |
研究実績の概要 |
交流を直流に変換する整流回路は、単相の場合、4つのダイオードで構成されるブリッジ回路と平滑用の大容量コンデンサによって構成される。しかし、回路の特性上、交流側の電流には高調波と呼ばれる不必要な電流が重畳し、電力系統で障害を起こす要因となる。そのため、近年では末端の機器で高調波を抑制する回路が付加されるようになっている。 本研究で着目している部分スイッチング整流回路は、高効率、高力率、高調波抑制、そして昇圧機能をバランス良く実現する単相整流回路である。この回路はエアコン向けに開発され、現在では大半の製品に搭載されている。しかし、この回路は未だに単相のみであり、三相化された例は確認されていない。そこで筆者らは、部分スイッチング整流回路の三相化を試みた。この研究で良好な結果が得られれば、三相の業務用エアコンや大容量の整流回路への応用が期待される。 今年度は、三相部分スイッチング整流回路の主回路構成と高効率化について検討した。筆者らは既に三相に拡張した部分スイッチング整流回路の一案を発表しており、良好な動作特性を確認している。しかし主回路の構成上、多くの半導体素子に電流が流れ効率低下が問題となった。そこで、同期整流という高効率化の手法を導入するか、または新たに主回路構成を再構築するかを検討し、シミュレーション結果や製品化時の費用対効果について試算した。その結果、主回路構成を従来の手法にはとらわれない形で変更を加えることにより、従来の動作特性をより効率よく実現する回路構成を考案した。シミュレーションを行った後、実験装置を作製して、その動作特性を検証した。その結果、定格3kWの装置において、最高で98.6%の効率が実現され、従来比0.6%の改善が確認された。 今後は、低出力時の力率の改善や、高調波抑制・高力率・昇圧・高効率を並立するスイッチングパルスの導出法について検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成31年度は、三相部分スイッチング整流回路の主回路の構築と動作特性の検証、そして同期整流による損失低減を研究計画に掲げている。筆者らが既に発表している直流側スイッチ配置の三相部分スイッチング整流回路は、高調波抑制や力率改善が確認されているが、直流リンク側にスイッチを配置しているためリアクトル放電時に2個のダイオードに電流が流れ、それによる損失が課題となっていた。 そこで、ダイオードをMOS-FETに置き換え、同期整流を行うことによる損失低減を検討した。シミュレーションを行ったところ、損失はダイオードの約半分に抑制されることが確認された。しかし、MOS-FETの個数の増加と、制御信号生成の複雑さが新たな課題となった。 そのため、直流側に配置していたMOS-FETのスイッチを交流側へ移動することができないかを考えた。そうすることにより、スイッチオン時に流れる直流リンクコンデンサからの短絡電流を回避できると考えた。従来の単相の部分スイッチング整流回路が双方向スイッチを交流側に配置していたように、各相の交流側に双方向スイッチを配置する構成を検討した。双方向スイッチはダイオードブリッジ回路を用いずにMOS-FETの2素子を逆向きに直列接続する回路を用いた。こうして、新しい主回路の基本構成が構築できた。 新たに提案する回路の動作特性を回路シミュレータで解析したところ、各相の交流側に配置した双方向スイッチをY形接続し、その中性点を直流側の電解コンデンサの中点に接続することで、同等の動作特性が実現されることを確認した。また効率が僅かに改善されることも確認した。この結果を基に、実験回路を作製した。 作製した実験回路で実験を行ったところ、高調波抑制と力率、昇圧特性は従来回路と同等であったが、効率が約0.6%改善されることを確認した。こうして当初の研究計画を新しい回路の構築によって達成した。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度は、当初の研究計画に沿って研究を推進し、新しい主回路構成を構築することで、従来の回路の問題点を解決して、効率の改善が実現された。また、少ない素子数で同等以上の性能が実現された。今年度も当初の計画に沿って、まずは高調波の抑制、次にスイッチングパルス幅の制御法について検討する。 これまでの単相・三相部分スイッチング整流回路の研究を通して、ダイオード整流回路と比較して大幅な高調波の抑制と力率の改善が確認されている。高調波抑制の目安として、高調波抑制ガイドラインに示される電流規制値を目標に動作特性の評価を行ってきたが、基本波成分に対する高調波発生量を表す高調波含有率を調べてみると、低出力時に高くなる傾向が確認されている。この影響は力率にも現れており、低出力時の力率が低く、定格出力3kWの回路において力率0.9を越えるのが1.5kW以上の出力時であることが確認された。そこで今年度は、特に低出力時の力率改善、すなわち高調波の抑制を研究の目標に掲げている。部分スイッチング整流回路は、各相の交流側に接続された双方向スイッチのパルス幅の制御によって、高調波発生量や力率、昇圧能力、効率が変化する。入力がパルス幅のみであることから、それぞれの値を個別に制御することは不可能であり、バランスを考慮した最良値を選ぶ必要がある。過去の論文では、2パルス化によって高調波発生量を制御することが可能であると記されている。そこで、その結果を参考に2パルススイッチングを導入して、低出力時における高調波抑制を試みる。 次に、高調波、力率、昇圧、効率のバランスを考慮したスイッチングパルス幅の制御法について検討する。入力交流電圧・電流、出力直流電圧・電流を取り込んで演算を行い、様々な特性値を自動的に良好な値へ収束するようなアルゴリズムを構築する。ディジタル制御装置の導入とアルゴリズムの構築が重要になる。
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