研究課題/領域番号 |
19K04352
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
門脇 一則 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 教授 (60291506)
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研究分担者 |
尾崎 良太郎 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (90535361)
弓達 新治 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 助教 (40380258)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 空間電荷 / Ultra Fast Charge / 移動度 / ポリエチレン / スパイク電流 |
研究実績の概要 |
雰囲気や温度が制御された容器内に置かれた低密度ポリエチレンシートに注入されたキャリアの挙動を,電流測定と空間電荷分布測定により観察する。観察結果からスパイク状のパルス電流が検出される原因ではないかと考えられているUltra Fast Charge の存在を確認する。一方で我々は,直流電界下のポリエチレンを流れる定常電流が,印加電界の上昇と共に減少するという興味深い実験結果を得ている。これらの実験事実は,ポリエチレン中には,極めて高速で移動する電荷が存在する一方で,バルク内で凍結したように動けなくなっている電荷が混在していることが示唆される。これらの不思議な現象の理解をもとに,ポリエチレンにおける電気伝導の物理を正しく理解することが本研究の目的である。初年度(2019)は,高温下での空間電荷と電流を測定した結果,室温下での電圧上昇時における空間電荷蓄積と電流飽和現象が,高温(60℃)では観察されないことを確認するとともに,温度上昇とともにスパイク電流の頻度が上昇することを確認した。2年目(2020)における成果として,以下のふたつが挙げられる。ひとつは,気中コロナ放電により形成された各種イオン(酸素イオン,窒素イオン)がポリエチレン内に注入された時の電流および空間電荷分布が計測できる装置を製作し,さらにこれを用いてスパイク電流発生に対する雰囲気の影響を明らかにしたことである。もうひとつは,電流連続の式とポアソンの式を基礎とした電気伝導の数値解析に,電界依存性を有するキャリア移動度の式を導入することによって,バルク内に空間電荷群が蓄積され停滞する現象を,再現することに成功した点である。これらの成果を,2020年度の国際会議(ISEIM2020)にて発表した。さらに2021年度の国際会議(ICPADM2021)においてもこれらの成果の一部を発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要の項にて記載のとおり,2020年度(2年目)においては,各種ガス中での気中コロナ放電により形成されたイオン(酸素イオン,窒素イオン)をポリエチレン内に人為的に注入できる装置を製作した。これを用いてスパイク電流の発生頻度がキャリア種に依存していることを明らかにした。しかし残念ながら,ミリ秒オーダーの短時間領域における各種キャリアのバルク中での高速移動現象を観察するには至っていない。Ultra-Fast Charge のキャリア密度は空間電荷分布測定装置の検出感度限界もしくはそれ以下であることが予想されるので,今後の実験においてはさらなる工夫が必要であると思われる。具体的には外部からの刺激により多量の空間電荷が注入された瞬間の空間電荷挙動を観察したり,あるいは高分子中に含まれる極性基含有率を任意に調整することで,高いhopping rateを維持できる状態のもとでUltra-Fast Charge の観察に取り組むべきである。 一方,得られた研究成果については,積極的に国内外へ発信できている。先に述べた国際会議(ISEIM2020)での発表(3件)にとどまらず,成果の一部は,学術雑誌(IEEE Trans. DEI)に論文掲載された。さらに現在も国内学会誌(電気学会論文誌)へ2件の論文を投稿中である。 以上の状況を総合的にみて,おおむね順調に進展していると判定した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度に構築した装置を用いて実験データを増やす。ポリエチレンよりも多くのホッピングサイトを有すると思われる材料を選定し,これを用いてUltra-Fast Chargeの存在を検証する。ひとつの候補として,エチレン-エチルアクリレート共重合樹脂を考えている。Time of Flight 法と同様の考え方で,ポリエチレン内部の高電界領域を通過するイオンの移動度を大まかに見積もる。その後,パルス静電応力法を用いて空間電荷挙動を観測する。 「早い電荷と遅い電荷の違いは何なのか。」これらの疑問を今後の研究で明らかにしたい。
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