研究課題/領域番号 |
19K04356
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
高尾 智明 上智大学, 理工学部, 教授 (30245790)
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研究分担者 |
坂本 織江 上智大学, 理工学部, 准教授 (40443262)
福井 聡 新潟大学, 自然科学系, 教授 (70293199)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超電導誘導機の発電特性 / 超電導誘導機の動作特性 / 洋上ウィンドファームの系統特性 |
研究実績の概要 |
1.小型試作超電導誘導機(SIM)による発電特性予備実験:SIMの回転慣性を利用して発電特性を調べた。SIMに200V交流電源をつなぎ、無負荷にて同期速度(1500 rpm)で電源を切り離し、回転減衰時のSIMの端子電圧を測った。端子電圧を回転数で割った値は2次磁束の量を示す。慣性でSIMは約3秒間回り続けたがその間、2次磁束の減衰はみられなかった。すなわち、ロータの超電導2次導体に超電導電流が保持されたことが示された。今後、電動・発電機を装着し2次磁束の変動特性を調べるための知見を得た。 2.5MWSIM風力発電機の設計と特性解析:容量5MW、回転数150rpm、出力電圧6.6kV、外径3.37mのSIM風力発電機を設計し、出力特性検討のための電気的モデルを作った。モデル化にあたって、要点となる2次側の超電導特性について、超電導導体はn値モデルにより決まる抵抗値(温度依存性も考慮)を持つ抵抗導体として扱こととして、誘導機の等価回路で特性の解析を行った。予備的な解析で、安定してトルク変化に追従し動作すること、2次導体の温度が同期速度に近づく下がり準超電導状態になることがモデルにより示された。 3.SIM風力発電機を導入した洋上ウィンドファームの系統特性:4基の風力発電機からなる洋上ウィンドファームを想定し、4基のうち1基を誘導機(IG)または現用同期機(常電導機,CG)または超電導機(SCG)とし、他の3基は誘導機とした系統をXTAP(電力系統瞬時値解析ソフトウェア)で作成し,シミュレーションを行った。 送電系統は,CV海底ケーブル、ACSR架空送電線、3基の昇圧変圧器からなる系を想定、この系統に三相地絡事故が生じた場合の系統動揺の収束特性を調べた。この結果、SCGを導入した場合において比較的動揺は小さくウィンドファームとして安定して発電できることが期待されることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下に研究計画調書に記載した研究課題ごとにR1年度の進捗状況を述べる (1)SIM運転時の内部状態の実験および解析による解明: 現有のSIMの回転軸に電動・発電装置を装着した実験装置の改造を終わったが、実験はまだ行っていない。しかし、改造前の装置で一部実験は行った。2次巻線の運転状態と交流損失の関係の解明,および2次巻線の熱的および超電導的な振舞いの解明については、改造前の装置による実験で2次巻線の超電導状態の継続を確認した。また、2次巻線の電磁解析モデルをつくりつつあり、R1年度においては抵抗損失が主体と考え検討を行った。同期運転状態への引き込み時の現象解明については、誘導機モデルと同期機モデルで同期引き込み現象の状況を確認し、これに基づき解析モデルを作成中である。 (2)SIMの機械系側および電源系側の入出力特性の解明:本課題はについて、SIMを従来型の誘導発電機と仮定して、洋上風力を想定した系統での振る舞いの検討を行った。 (3)上記基礎的研究結果を基にSIMの特性が活かせる具体的な応用機器の特性検討:5MW級直接駆動型風力発電機の試設計と特性検討については、現在直接駆動型の発電機の可能性を検討中であり。増速機付きの発電機の試設計は行った。フライホイールを用いた瞬時電圧低下補償装置の特性検討については、電動・発電機付きのSIM実験装置の実験結果を待って検討する予定である。 以上よりR1年度の研究は概ね順調に進捗していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
R2年度以降の研究推進方策を以下に研究項目毎に述べる。 (1)SIM運転時の内部状態の実験および解析による解明:R1年度に現有の小型SIM装置に負荷装置として、インバータ制御方式の電動・発電装置を装着し実験装置を改造し、また、機械的、電気的な入出力を測定できる装置も導入した。これを用いSIMの種々の特性を測定できる環境が整ったので、SIM運転時の内部状態を計測しデータを収集し、これを基に、2次巻線の超電導的な振る舞い、同期引き込み現象の解明のための解析モデルの精度を向上させていく予定である。 (2)SIMの機械系側および電源系側の入出力特性の解明:上記(1)の成果を基に、SIMの機械系側および電源系側の変動に対する相互作用の解明、さらに、機械系、電源系結合システムの振る舞い示す解析モデルの構築していく予定である。 (3)上記基礎的研究結果を基にSIMの特性が活かせる具体的な応用機器の特性検討:上記(1)および(2)の成果に基づき、5MW級SIM風力発電機の試設計とウインドファームでの多数期連携システム系統の特性検討を行う予定である。また、フライホイールを用いた瞬時電圧低下補償装置の特性検討を上記(1)の実験結果に基づき検討を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用の理由:既存の超伝導誘導機(SIM)を用いた実験を行った結果、超電導回転子コイルの残留磁界により、回転慣性で発電が可能であることは明らかになり、研究の進展があった。この結果に基づき、より詳細な測定を行うため、測定装置の測定機能の高度化、SIMの評価装置の機能追加が必要となり、測定装置およびSIM評価装置の購入費用が当初予算より増加した。このため研究費を前倒して使用することとした。ただし、購入物品の割引などにより前倒しを含めた研究費に一部残余が生じ、次年度の研究に有効利用する。 後年度の交付予定額を減額しても研究目的を達成できる理由:初年度の予算で購入予定の装置類が揃うため、令和2年度、3年度に請求する金額は減るが、元年度からの繰り越し研究費もあるため実験は支障なく行え、また経費を有効に活用し研究目的の達成を目指した研究は可能である。 本年度以降の研究実施計画:予算使用の変更後には、SIM評価装置を用い繰り返し実験を行い、発電機、電動機としての特性のデータを取得する。その際、令和元年度からの繰り越し研究費を使用して繰り返し回数を増やし詳細なデータを取得する。これらに基づき、SIMのエネルギー変換装置としての入力・出力特性、損失特性を把握し、SIMの特性解析モデルを作る。このモデルに基づき、風力発電機、フライホール型瞬時電圧降下補償装置への応用特性について解析を行なっていく。
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