解析手法に関して,媒質の電気的特性を導電率と誘電率ようの両者に対応できるように,初年度に構築したプログラムコードを複素数計算に対応させた。また,媒質の食塩水の導電率だけでなく,熱伝導率をも温度依存性を考慮できるようにコードを対応させた。 そのうえで,歯モデルに供給する電気エネルギー(印加電圧と印加時間の積に比例)を一定として,印加時間を変化させた場合の根管内における時間的かつ空間的な温度上昇への影響を検討した。その結果,印加時間が短い(印加電圧が大きい)場合は根管内の局部的に温度上昇することが確認された。逆に,印加時間が長い(印加電圧が小さい)場合では局部的な温度上昇が起こるが,熱拡散が起こるため効果的な温度上昇を見込めないことが分かった。 また,様々な文献調査を行った結果より,歯(象牙質)の導電率は湿潤状態や個人により異なることが分かった。したがって,歯の導電率を0.001S/m ~ 0.1S/mの範囲で変化させて温度上昇の数値計算を行った。その結果,歯の導電率が小さいほど通電電流は根管内の集中するため,根管内部での温度上昇が顕著になることが分かった。逆に,歯の導電率が大きい場合は,通電電流が歯を通ることになり,根管内部での温度上昇が期待できない。しかし,これを改善する方策として,根管に整理食塩水よりも濃度の濃い溶液(NaOCL)を注入することで根管内に通電電流が集中しやすくなることを確認した。 さらに,根管内で生じる平均熱エネルギー密度と根管内における平均的な温度上昇に比例関係があることが確認できたことから,今後はいかに根管内に通電電流を流して熱エネルギーを供給するかが一つのキーワードになると考えられる。
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