研究課題/領域番号 |
19K04382
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
久保 博嗣 立命館大学, 理工学部, 教授 (40633243)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 通信方式 / 変復調 / 信号処理 / 移動体通信 / 音響通信 |
研究実績の概要 |
本研究では,伝搬路の時間変動や遅延時間広がりが極めて大きな2重選択性の伝搬環境に有効なマルチキャリア差動トレリス符号化変復調技術を検討する.具体的には,高速鉄道のための大ゾーン空間波列車無線システムや,音波を用いた移動環境に対応した音響通信システムなど,これまでの無線通信技術ではその対応が困難であった高品質・高信頼の通信システム実現をターゲットとしている. 本研究では,(a)時間選択性への耐性向上,(b)周波数選択性への耐性向上,(c)厳しい2重選択性環境性能評価の観点から研究を実施する.具体的な数値目標は,従来比で4~6倍厳しい2重選択性伝搬環境への対応である. 本研究の技術確立により,時速500kmを超える移動速度で数十kmのカバーエリアを実現する高速鉄道用の空間波列車無線,移動速度が3knotを超える水中音響通信や歩行程度の陸上音響通信にて,高品質・高信頼の通信実現を目指す. 令和2年度は,上記(b)に関して,差動一般化マルチキャリア伝送方式の研究を実施し,従来比2倍の周波数選択性への耐性を実現する.具体的には,次の2方向の検討を実施する.①時間/周波数協調信号点配置の研究により,マルチキャリア伝送の信号点の配置を,時間・周波数の2次元の観点から,時間と周波数を協調させた信号点配置によって信号点間の干渉を軽減手法を検討した.②2次元可変波形整形フィルタに関しては,時間的に矩形フィルタとした差動OFDM,周波数的に矩形フィルタに近い余弦ロールオフ特性とした差動多重シングルキャリア伝送を検討した.特に,時間軸方向に差動符号化を行うOFDMにおいては,時間選択性に対する耐性をほとんど劣化させることなく,従来比2倍程度の周波数選択性への耐性を実現できることを確認した. なお,上記成果にもとづき,雑誌論文が3件掲載され,学会発表を11件実施した(内,国際会議は4件)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通りに進捗している. 5.記載の①に関しては,信号点にサブキャリア毎にタイミングオフセットを与える手法,周波数軸上の2つのサブキャリアをセットにして情報を伝送する手法にて,信号点間の干渉を軽減できることを明らかにした.5.記載の②に関しては,差動OFDMと差動多重シングルキャリア伝送方式という2つの波形整形フィルタの得失について明らかにした.特に,差動OFDMにおいては,サイクリックプレフィックスの比率を高めることで,周波数選択性への高めることが可能となることを明らかにした.加えて,サブキャリア毎に時間軸方向に差動符号化を行い,サブキャリアに位相オフセットを与るSPO (subcarrier phase offset) という手法を提案し,情報伝送効率を改善できることを明らかにした.他方,令和3年度成果予定の2重選択性環境の性能評価系の検討にも着手した. 令和元年度成果の差動トレリス符号化変復調の研究に関しては,継続して検討を実施し,差動OFDMと差動多重シングルキャリア伝送方式への適用時の性能に関して検討し,良好な耐2重選択性特性を有することを明らかにした. なお,令和2年度成果の差動一般化マルチキャリア伝送方式の研究は,今後も継続して検討を実施する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度の研究は,5.記載の(c)に関して,2重選択性環境の性能評価系を構築することで,従来比4~6倍の2重選択性環境耐性の実現性を確認する.具体的には,次の2方向の検討を実施する.③計算機シミュレーション評価にて,令和元年度成果の差動トレリス符号化変復調技術と令和2年度成果の差動一般化マルチキャリア伝送方式を搭載した,2重選択性環境を模擬した計算機シミュレーション環境を構築する.この環境にて,従来比4~6倍の2重選択性の厳しさ(fDτD)が4%~6%での安定動作を確認する.④実環境簡易試験評価にて,移動体音響通信に関しては,上記③のシミュレーション用ソフトウェアを活用し,MIMO (multiple-input multiple-output) オフライン性能評価装置にて厳しい2重選択性環境での性能評価を実施する.陸上音響通信に対しては立命館大学構内の大型教室を活用し,水中音響通信に対してはオキシーテック保有の海洋バージを用いて実環境簡易試験評価を実施する.なお,本研究では,平成28年度から平成30年度実施の科研費成果である,MIMOオフライン性能評価装置を活用する.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 国内研究会・国際会議のオンライン化に伴い出張が中止となったこと等から,当初想定していた費用と比較して令和2年の経常費用が少なくなり,差異が発生した. (使用計画) 令和3年度にかけて,成果発表を加速するとともに,特に海洋等の実環境試験に重点をおいて実施する予定である.ゆえに,この費用差異は,令和3年度の1年間で吸収する予定である.
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