| 研究課題/領域番号 |
19K04385
|
|---|
| 研究機関 | 北海道大学 |
|---|
研究代表者 |
大宮 学 北海道大学, 情報基盤センター, 教授 (30160625)
|
|---|
| 研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
| キーワード | 通信工学 / 無線通信 / 移動体通信 / 5G / 屋内電波伝搬 / ミリ波 / 計算機シミュレーshジョン / 電磁界解析 |
|---|
| 研究実績の概要 |
本研究の目的は，第5世代移動通信システム(以後，5Gと略称)実現のために不可欠な屋内伝搬特性及び屋内から屋外への伝搬特性を高精度に推定する数値解析手法の確立と，それを利用した伝搬特性推定である．ただし，5Gでは高いデータスループットを実現するために，我が国においては28GHzのミリ波周波数帯が利用される．
本研究代表者は，無線LAN周波数である2.4GHz帯及び5GHz帯において大規模数値電磁界解析手法及び屋内伝搬環境を数値モデル化するための数値シミュレーション手法をすでに提案し，高精度な特性推定を実現している．本研究では，当該年度において，前述の数値シミュレーション手法を28GHzミリ波帯での電波伝搬特性推定に適用するための機能強化を行う．さらに，数値シミュレーションを実施し，計算資源や計算時間などの基本的要件を明らかにする．最後に，特性推定の可能性を示し，併せて数値結果の有効性を検証する．
計算機シミュレーション用アプリケーションソフトウエアとして，我々研究グループが開発を行っている大規模電磁界解析システムJet FDTDを利用した．始めに，Jet FDTDを28GHzミリ波帯での数値シミュレーションに適応させるため，コードをスレッド並列化及び分散メモリ型並列処理に対応させた．さらに，大容量の主記憶装置を備えた最新のスーパーコンピュータを利用して高速処理を実現するためのプログラミングチューニング法を提案し，それを実装した．また，屋内伝搬環境として会議室を数値モデル化し，大規模数値シミュレーションを実行した．これら検討から，数値シミュレーションの実行に必要な計算資源量及び計算時間などの基本的要件を明らかにした．また，数値結果から伝搬損特性を高精度に推定することが可能であり，測定結果と特性の傾向が一致することを示した．
|
| 現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算機シミュレーションに基づいて，周波数28GHzにおける伝搬損特性及び通信可能範囲などの基本的な屋内伝搬特性推定を行った．始めに，計算機シミュレーション用アプリケーションソフトウエアとして開発を行っている大規模電磁界解析システムJet FDTDを汎用的なスーパーコンピュータで利用するため，コードをスレッド並列化及び分散メモリ型並列処理に対応させ，さらに高速化のためのプログラミングチューニングを実施した．併せて，電磁界成分値を保存する変数を単精度実数にすることで，数値的に取り扱う伝搬環境が大規模な解析対象であっても，倍精度実数の場合に比較して，必要な演算ノード数を2分の1，実行時間を約0.7倍にすることができることを明らかにした．
次に，周波数28GHzでの測定結果が報告されている会議室について計算機シミュレーション用数値モデルを開発した．その外寸は11.73m×9.04m×4m，部屋内部に配置された金属キャビネット，机および椅子などの什器を含めた．28GHzの波長が約11mmであることから，空間分解能を1mmとした．数値モデルを104個の空間領域に分割し，104台の演算ノード(総CPUコア数4,160個)及び総主記憶容量35.4テラバイトを利用した分散メモリ型並列処理により，屋内の電磁界成分の時間変化を求めた．この場合，電磁界成分が定常状態に達するまでに必要な実行時間は約5日間(120時間)であった．
得られた電磁界分布の数値データを解析することで，伝搬損特性を評価し，その結果が測定結果と一致する傾向が得られていることを確認した．以上のことから，計算機シミュレーションに基づく周波数28GHzでの屋内伝搬特性推定が可能であることを示した．
|
| 今後の研究の推進方策 |
これまでの計算機シミュレーションは，実行時間が5日間と長い．そこで，可能な限り短時間で結果が得られる実行方法を検討する．これまでは，主記憶容量の使用可能上限値に着目し，最小の演算ノード104台を使用した計算機シミュレーションを行った．ただし，使用可能な演算ノード数の最大値が256であことから，解析モデルの空間分割を工夫することで，実行時間と演算ノード数の最適化を図る．
次に，伝搬環境としてオフィスビル内の会議室及び戸建住宅内部に設置された基地局を想定した屋内伝搬特性及び屋内から屋外への伝搬特性の推定を行う．その際，室内什器の構造，配置及び電気定数，コンクリート壁及び床内部の鉄筋構造の数値モデル化を検討することで，高精度な伝搬特性推定を可能にする．すなわち，特定のサイト(戸建住宅及びオフィスビル会議室)を対象に，数値解析の精度を向上する．得られた数値結果を既存の測定結果と比較検討し，計算機シミュレーション手法の有効性を検証する．
|
| 次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は，当初旅費として支出する予定であったが，2020年3月開催予定の学会講演会が新型コロナウイルス感染症対策のために開催中止になった，これについては翌年分として，消耗品等の物品費およびその他（計算機使用料の一部）として支出する予定である．
|
