研究課題/領域番号 |
19K04391
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
和田 忠浩 静岡大学, 工学部, 教授 (00303529)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 流星バースト通信 / 赤道地域 / 通信路モデル / マルチレシーバシステム |
研究実績の概要 |
流星が地球の大気圏に突入する際、大気との摩擦により電離気体柱(流星バースト) が発生する。 流星バースト通信(MBC)は、この流星バーストによる低VHF 帯電波の反射現象を利用した見通し外通信であり、最大2000km離れた通信局間で、大規模なインフラを必要とせずデータ伝送を実現できる。そのためMBCは大量のデータ伝送を必要としない、環境観測や気象観測システムなどに応用されている。現在、赤道地域でのMBCの利用を目指しインドネシアでMBC実証実験をしており、本課題では数年に渡る継続実験により、低緯度地域でのMBC性能や通信路特性を明らかにするものである。 MBCでは、アンダーデンスバーストとオーバーデンスバーストの2種類の流星バーストからの電波反射が考えられる。これまでの通信路モデル化に関する研究の多くは、アンダーデンスバーストによる反射現象を考慮したものであった。本研究では、赤道地域でのMBC実験の観測結果を利用し、オーバーデンスバーストからの反射波の通信路モデルを行い、ピーク受信電力分布の理論式を導出した。 そして通信プロトコルを考慮したシミュレーションを行い, 提案した通信路モデルが、実際のMBCの性能評価において妥当であるということを示した。 赤道地域での実証実験における課題の一つとして、受信局周辺の雑音環境の時間変化が大きく安定した通信性能が得られないという問題がある。そこで、受信機を数m程度の間隔を開けて複数設置し, 各受信機の復調結果を合成することで雑音変動を軽減するマルチレシーバシステムの導入を検討している。本研究では、MBCにおけるマルチレシーバシステムの適用について、個別受信方式、軟値合成方式、対数尤度比合成方式の3つの方式を用い、アンテナの指向性やホットスポットの影響を考慮しながらシミュレーションを行い、各方式の有効性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
流星バースト通信(MBC)の実証実験やその応用は、中緯度地域や高緯度地域で行われていたが、低緯度地域においては行われていなかった。研究代表者は低緯度地域としてインドネシアにおいてMBC実験局を開設し、世界で初めての低緯度地域におけるMBC実験を行った。本課題では、このMBC実験を数年に渡り継続することで、低緯度地域でのMBCの性能を測定するとともに、通信路の特性を明らかにしてそのモデル化について検討を行うものである。令和元年度において、インドネシアの共同研究先の大学にて、基礎実験を実施するとともに研究計画に関する協力体制を確認し、令和2年度から本格的な実験を開始する予定であった。しかしながら、新型コロナウィルスの世界的な流行により、日本からの海外渡航ならびに、インドネシアにおける人受入が大きく制限されたため、現地でMBC実験を十分に進めることができなかった。この状況のため、日本国内において、現状得られている実験結果の検証とそのモデル化、ならびにマルチレシーバシステムの理論検討に取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
インドネシアでへの渡航制限が緩和されたことにより現地での実験が可能となりつつあり、現地に設置したMBCの送受信機装置やアンテナのメンテナンスを早急に実施する。また、現地での実験について迅速に取り組みができるよう、日本国内で実施できる課題について検討を進める。特に、ソフトウェア無線(SDR)に基づく流星バースト通信用無線機の改良を目指すこととし、さらにマルチレシーバシステムの検討や、誤り訂正符号であるPolar符号を用いた通信システムに関する検討を更に進める。その検討に基づいて、SDRによる流星バーストシミュレータの制作を実施する。インドネシアの共同研究先との協力の下、赤道地域でのMBC実験の体制について再検討する。そして、継続的な実験のため定期的にインドネシアに赴き、実験の継続を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
本課題の実証実験は、インドネシアで行うものであり、現地に定期的に赴くための海外旅費を計上していた。しかしながら、新型コロナウィルスの世界的な流行により、日本からの海外渡航ならびに、インドネシアにおける人受入が厳しく制限されたため、現地に赴いて実験を進めることができなかった。 今年度は渡航制限が緩和されており、実験実施体制の立て直しや実験装置の再構築のため、定期的に現地に赴く予定である。
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