研究課題/領域番号 |
19K04392
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
岡田 啓 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (50324463)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大規模災害 / 臨時無線ネットワーク / ドローン |
研究実績の概要 |
大規模災害時には,安否情報や被災状況の把握などのために通信手段の確保が重要となる.しかし,通信インフラの破壊,通信施設の機能停止,通信需要増大によるネットワークの混雑などにより通信障害が発生することが想定される.そこで本研究では臨時通信システムとして,ドローンを用いて臨時無線ネットワークを構築することを目指す.本システムでは上空にネットワークを構築することで,ドローン間やドローンと地上ユーザ端末間の見通しを確保し,無線通信路の安定化を図ることができる.しかし,大規模災害時には十分な台数のドローンを確保できず,そのことが遅延時間の増加につながるなど,いくつかの課題がある. 2019年度では,(i)低遅延化を図るための飛行パターンについて検討した.飛行パターンとして,反発飛行と共用飛行経路の導入を提案した.複数のドローンが重複した場所を飛ぶことを避けるために,反発飛行では各ドローンがお互いに通信範囲が重なった場合,それぞれ反発し合うように移動する.共用飛行経路は複数のドローンが共用して飛ぶ決められた経路であり,これを導入することで,常時,共用経路上に無線ネットワークが分断されずに構築される.情報を一旦共用飛行経路上のドローンに集約することができ,送信元から宛先への情報伝送を効率的に行うことができる.計算機シミュレーションの結果,反発飛行を導入することで,情報伝送遅延時間が短縮されることがわかった.また,共用飛行経路を用いた場合経路外を飛行するドローンが一定数以上確保できる状況であれば,遅延時間をより短縮できた.さらに,(ii)バッテリ切れによるドローンの離脱が遅延特性に与える影響についても評価した.その結果,離脱動作を加えた場合でも反発飛行の遅延特性が良いことがわかった. また,次年度の検討に向け,ドローンを用いた受信信号電力の測定環境を構築した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請書において,2019年度は低遅延化を図るための飛行パターンについて検討することを予定していた.具体的には,(i)低遅延化を図るための飛行パターンとして反発飛行と共用飛行経路について検討し,さらに(ii)バッテリ切れによるドローンの離脱を考慮して上記二つの飛行パターンについて検討することであった. これに対し研究実績の概要で述べたように,反発飛行と共用飛行経路を提案し,計算機シミュレーションによりその性能を明らかにしている.まずは共用飛行経路の大きさについて検討し,ドローンの台数がある程度あれば共用飛行経路が大きくなるにつれて遅延が小さくなることがわかった.これは,送信元と宛先の座標が遠い場合に最も遅延時間が大きくなるが,共用飛行経路が大きいほどその場合の遅延時間を大きく短縮できるためと考えられる.ただしドローンの台数が少ないときは経路外のドローンの台数が少なくなりすぎるため,共用飛行経路を小さくしたほうが遅延時間を短縮できることが分かった.また,反発飛行における平均情報伝送遅延時間を求めた.その結果,反発飛行を導入することでドローン同士の通信範囲の無駄な重なりが低減し,ドローンがバランスよく分布することで遅延時間を短縮できるのを示した. さらに,バッテリ切れによるドローンの離脱を考慮して遅延時間を評価した.ドローンの離脱を考慮することで遅延時間は増加する.しかし,反発飛行の場合において,ドローンが離脱すると飛行可能なドローンは地域内で再分散をするような動きをする.この動作により反発飛行の方が離脱による遅延特性への影響が小さくなることが分かった. このように,当初目的を達成することができ,おおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度では,低遅延化を図るための飛行パターンを検討し,バッテリ切れによるドローンの離脱を考慮してその性能を評価した.その結果,離脱の影響を考慮しても反発飛行が低遅延であることを示した.しかし,ドローンの台数が少ないと離脱の影響による遅延時間の増加量は大きい. そこで2020年度では,(ii)バッテリ切れによるドローンの離脱を考慮しつつ,特にドローンの台数が少ない場合において低遅延を達成するような飛行パターンの考案を行う.考案した飛行パターンを計算機シミュレーションにより評価することで,遅延時間の増加を抑えることができることを示す. また,(iii)ドローンが飛行することによる機体の傾きが通信路に与える影響をモデル化する.これまでの検討では,ドローン同士がある距離内に位置していれば通信可能としていた.しかし,実際にはドローンは飛行時にその移動方向に傾いてしまうので,アンテナの指向性及び偏波面のずれの影響を考慮すると受信電力が減少する.その結果,通信可能な距離も変化する.そこで,ドローン飛行時の速度と傾きの関係及び傾きを考慮することによる受信電力の減少をモデル化する.そして,計算機シミュレーションによりドローンの移動速度及び台数に対する情報伝送遅延特性について評価することで,ドローン飛行時における機体の傾きによる通信性能への影響を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初,予算に計上してあったドローン機器について,今年度,まずは1機のみを購入しドローンを用いた受信信号電力の測定環境を構築した.このため,次年度使用額が生じた. (使用計画)今年度,予算に計上してあったドローン機器について,残りのドローンを次年度において購入する.
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