大規模災害時には,安否情報や被災状況の把握などのために通信手段の確保が重要となる.しかし,通信インフラの破壊,通信施設の機能停止,通信需要増大によるネットワークの混雑などにより通信障害が発生することが想定される.そこで本研究では臨時通信システムとして,ドローンを用いて臨時無線ネットワークを構築することを目指す.本システムでは上空にネットワークを構築することで,ドローン間やドローンと地上ユーザ端末間の見通しを確保し,無線通信路の安定化を図ることができる.しかし,大規模災害時には十分な台数のドローンを確保できず,そのことが遅延時間の増加につながるなど,いくつかの課題がある. 2022年度では,ユーザの分布が不均一な環境のためのドローンの飛行方式を提案した.提案飛行方式は被覆制御に基づいており,密度関数を使ったボロノイ領域を利用している.そこで,ユーザの分布が事前に分かる場合とそうでない場合を検討した.また,ドローンが少ない場合の遅延改善のために,目的地決定動作に関して目的地を一定期間維持するようにし,目的地到着後の移動にランダム性を持たせる.不均一なユーザ分布でのシミュレーション結果から,従来の飛行方式と比較してユーザの分布を考慮することで平均メッセージ伝達遅延時間が小さくなることを示した.このとき,ユーザ分布の偏りが大きいほど提案飛行方式の方が,平均メッセージ伝達遅延が優れていることが分かった. 研究期間全体を通して,(i)低遅延化を図るための飛行パターン,(ii)バッテリ切れによるドローンの離脱が遅延特性に与える影響,(iii)ドローンが飛行することによる機体の傾きが通信路に与える影響という三つの課題に取り組みこれらを解決することで,ドローンを用いた大規模災害時臨時無線ネットワークにおける情報伝送の低遅延化を達成することができた.
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